戦うこと


タムは、首に下げてある、銃弾・スミノフと、
偽弾を取り出す。
右手におさめると、タムの頭の中に、名前が流れ込んでくる。
タムは、エバとワイヤープランツ男爵に声をかけた。
「避難して下さい、できるだけ守りますけど、保障は出来ません」
ワイヤープランツ男爵は、うなずいた。
エバもうなずいた。
ベアーグラスも、メイに声をかける。
「メイちゃん、お兄さんとお父さんと、一緒にいてね」
メイは、うなずいた。
タムは、チャメドレアに向き直った。
チャメドレアは、こちらを見下すように見ている。
「お子様に何が出来て?」
タムは、チャメドレアを見据えた。
「戦うことです」
静かに言うと、タムは銃弾と偽弾を口に入れ、噛み砕いた。
タムは覚醒する。
髪は緑色に。
目の色も緑色に。
タムの視界がクリアになる。
倒すべき相手が、くっきりと見える。
よどみはない。
ゆがみもない。
ただ、戦うべき、倒すべき相手が見える。

「現れよ、スミノフ」
タムは名を呼ぶ。
「現れよ、トマト」
偽弾の名前だ。
タムは、両手を合わせる。
「ともに現れよ、ブラディー・メアリー!」
タムの両手が、赤く輝く。
タムは、両手を振っておろした。
その両手には、一振りずつ、細身の剣が握られていた。
二刀流だ。
タムは、まっすぐ前を見る。
チャメドレアと、火恵の民。
周りにもいるのだろう。
ならば、外に出たほうが早い。
タムはそこまで判断した。
タムは風になる。
踏み込み、書斎の机を台にして、
開かれた大窓に向かって飛び出す。
火恵の民が、右手から火を…
「遅い」
タムは一言言うと、チャメドレアの左にいた火恵の民を十字に切った。
タムは、庭に足をつける。
火恵の民のむくろが落ちる。
チャメドレアが、何か言おうとしたらしい。
今のタムには関係ない。
空気が震える感覚。
火恵の民が集まってくる。
上で、切り裂く音。
ベアーグラスだ。
覚醒している。
その手には、黒い大鎌。
ブラック・ルシアンだ。
切り裂かれた火恵の民のむくろが落ちてくる。
半分は、彼女に任せよう。

タムは跳躍した。
わらわらといる火恵の民。
負ける気はしない。
タムは、壁を蹴り、火恵の民の一体に飛ぶ。
後ろから火恵の民の感覚。
前、後。挟み撃ちのつもりか。
タムは、前方の火恵の民に向け、細身の剣を突く。
右手の細身の剣が、火恵の民を捕らえる。
タムは剣を抜かないまま、体勢を変える。
後ろから向かってきた火恵の民を、左手の剣で捕らえる。
二体の火恵の民は、びくびくと動く。
「遅い」
タムはそのまま身体を翻し、二体同時に切り裂く。
むくろはぼとぼとと落ちていった。
タムは、適当な屋根に足をつける。
ベアーグラスが二体屠った。
残り二体。
片方はベアーグラスに任せよう。

タムの視界の端で、先ほどまで勝ち誇っていた、チャメドレアが逃げていく。
関係ない、と、タムは思った。
人質でも取ろうものなら、切るだけだと。
今は…こいつらを倒すのが先だ。
タムの目の前に残りの一体。
ベアーグラスにも、一体。
火恵の民が、右手に火を携える。
タムは静かに構えた。
高揚する。
この感覚にあることに、歓喜する。
クリアな視界の中、火が輝きを増す。
大鎌を回す音がする。
ベアーグラスが構えたのだ。
風も無い、くっきりした視界。
敵も味方も、出方を伺っている。
数秒、時が流れた。
火が揺らぎ、火恵の民が動き出した。
熱が動く。
タムが屋根を蹴る。
ベアーグラスが宙を舞う。
タムは、違うことなく死角を狙う。
強い火を出していることで安心しきっている…右側の死角。
タムは剣を火のすぐ近くに突き立てる。
火恵の民は攻撃が出来なくなる。
突きたてたそこから、透明の液体があふれ出る。
タムは剣を突きたてたまま、反動をつけて火恵の民の上を取る。
もう片方の剣は、火恵の民の首にかかる。
「バイバイ」
タムは両方の剣をスライドさせる。
赤い剣は、火恵の民を切り裂いた。
ほぼ同じ頃、ベアーグラスも最後の一体をむくろに変えていた。


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