出陣


ちりりんちりりん

グラスルーツ管理室の、グラスルーツ送受信機のベルがなる。
アイビーがギミックを一ついじり、
受話器を取った。
『エリクシルだね』
ポリシャス町長の声がする。
若くなったその声は、部屋中に響き渡っている。
先ほどのアイビーのギミックは、部屋に声をいきわたらせるものだったのかもしれない。
「ポリシャス町長、そちらの状況は?」
『火恵の民は、空になったサボテン治療屋の中にいる』
「動きは?」
『不気味なほど静かだ』
「わかりました。エリクシルのメンバーがそちらに行きます」
『私は病人を守ることを優先させるよ』
「お願いします」
アイビーは、受話器を置く。
そして立ち上がる。
腰までの髪が揺れた。
「ユッカ、アジトを頼みます」
ユッカは答えるように、皆を包んで吹いた。

「行きましょう」

覚悟を決めた、エリクシルのメンバーが、一人また一人と、グラスルーツ管理室を出る。
タムも続く。
ベアーグラスも続く。
アイビーも出る。
ユッカがふわりと舞った。

エリクシルのアジトの、出入り口となる扉を開く。
清流通り三番街、池のふち二巻きの路地が現れる。
路地には…雨恵の町の住人が集っていた。
赤くぼんやりした太陽の光の下、
見知った顔や、見知らぬ顔が見える。
ラセンイ博士、ヒポエステス。
ドラセナ清掃屋。
ファイアーボールがいる。
棺桶屋のコケモモがいる。
ワイヤープランツ男爵。
メイとエバ。
病人らしいものもいる。
ヘデラの姿がある。
アラビカもいる。
アロカシアがいる。
銀河楽と吹雪柱の姿が、あっちこっちの病人の間を行きかっている。
ポリシャス町長の姿を、タムは認めた。
ポリシャスも気がついたらしい。
タムたちエリクシルのメンバーの元へやってきた。
「ここが一番安全だと思ってね」
アイビーがうなずく。
「いざとなれば、アジトそのものが守ってくれます。弱者から、中へ」
「ありがたい」
ポリシャスは礼を言い、銀河楽に呼びかける。
銀河楽は、病人の応急手当でてんてこ舞いだ。
「チャメドレアはエリクシルでつなげ…か」
ポリシャスがつぶやく。
「私たちがつなぎます。チャメドレアがどこか別の世界へと行かないように」
「ありがたい」
「エリクシルは、なんでも屋ですから」
「そうだったな、なんでも屋だ」
銀河楽の応急手当がある程度終わったらしい。
ポリシャスは病人などを運びに、人ごみの中に駆けていった。

避難して来た者が、どんどんアジトに入っていく。
メイとエバがタムのほうにやってきた。
「火恵の民が来ていると聞きます」
理知的な口調でエバが言う。
「エリクシルの皆さんなら負けないと思います」
タムはうなずく。
エバもうなずき返す。
そして、エバが手を差し出す。
タムはその手を握る。
「御武運を」
エバがそう言って、アジトに入る。

アジトから声が降ってくる。
中に入った住人たちの声だ。
「がんばれ!」
「火恵の民なんかに負けるな!」
「応援してるぞ!」
「姉さん!がんばれ!」
「ここはドラセナ清掃屋が守ります!」
「…がんばってください…」
「棺桶は必要ないな」
「君たちが頼りだ」
「ふぁいと!おー!」
「フユシラズ様の予言を守ってください!」
誰ともわからない、声、声。
それが、エリクシルのメンバーに降ってくる。

「責任重大、で、ござるな」
ポトスが笑みすら浮かべながら言う。
肩にはリュウノヒゲがいる。
「こってんぱーんに、のしちゃえばいいじゃない」
飄々と、クロ。
「今度の敵は、怪物を作ると聞く」
鋭い目で、ネフロス。
「やれるだけやるだけじゃない」
目をくりっとさせた、パキラ。
「そうやそうや」
同意する、プミラ。
「どうなるかは、わからないでがす」
不安もある、アスパラガス。

タムは、ベアーグラスの手を握った。
ベアーグラスは、タムの手を握り返した。

アイビーが静かに告げる。
「出陣です」

彼らは歩き出した。
しっかりと、声援を受けて。


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