時間稼ぎ
クロとオリヅルランが、座り込んだ。
限界まで水を行きかいさせたのかもしれない。
『つぶせ!』
カレックスの声がする。
怪物は従う。
二人を足でつぶそうとして…
踏んだそこは、ただの地面だ。
「危ないでござるよ」
怪物の脇から声がする。
そこには、二人を脇に抱えた、ポトスがいた。
髪は緑色、目も緑色。
覚醒をしている。
ポトスは、噴水に二人を投げ込む。
噴水は相変わらず水を吐き出している。
「少々荒っぽいでござるが、ここで見ていてほしいでござる」
「さんきゅ」
クロはひらひらと手を振った。
オリヅルランとクロは、二人同時にため息をついた。
「さて、カレックス」
時代劇がかったポトスの声。
「拙者、あまり器用な真似はできぬでござる」
『あなたも邪魔をするの?』
「拙者は、時間稼ぎをするだけでござる」
『時間稼ぎ?』
「そう、時間稼ぎでござる」
ポトスは、右手を前に出す。
「現れよ、吟醸・上善水如(じょうぜんみずのごとし)」
その右手に、長い刀が現れる。
ポトスは、大きく刀を振る。
透明で、長い刃だ。
「参る」
ポトスは地を蹴った。
怪物がポトスに気がつく。
怪物は大きく息を吸い、吐く。
熱が襲ってくる。
ポトスの刀は、その息さえも断った。
風の切れるような音がする。
「まだまだでござろう」
ポトスが構える。
「この怪物の力、まだあるのでござろう」
ポトスは挑発する。
カレックスがのったらしい。
『では、六眼の力をくらいなさい!』
「ろくがん…で、ござるか」
ポトスは構え…
怪物の6つの目は、一斉にポトスに向かった。
ポトスは動かない。
怪物の足がポトスを蹴る。
微動だにしないまま、ポトスが転がる。
『六眼に見られた気分はどう?動けなくなって、いたぶられる気分はどう?』
ポトスはしゃべれない。
石にでもなっているようだ。
『じゃあ、こいつはもういいわね。つぶしなさい』
カレックスが指示を与えると、怪物はポトスをつぶしに…
不意に、怪物が暴れだした。
ポトスが動き出す。
体勢を整え、構える。
「リュウノヒゲ」
いつもポトスの肩にいたリュウノヒゲが、
怪物に飛び掛り、一つの目のまぶたに食らいついている。
4本の手が、てんでばらばらにリュウノヒゲを追いかける。
小さなリュウノヒゲが逃げ回る。
やがて、ひょいと怪物の身体から降りると、
リュウノヒゲは、ポトスの肩におさまった。
「ありがたい」
リュウノヒゲは、肩で跳ねた。
「アイビー!」
ポトスが呼びかける。
「拙者もう少し、怪物の能力を引き出すでござる。解析を頼むでござる」
アイビーはうなずいた。
「皆さん」
アイビーが皆のほうを見る。
「怪物の力は未知数。しかしこのままでは町が、この世界が破壊されます」
ネフロスがうなずく。
「それで、俺たちも時間稼ぎか?」
アイビーがうなずき、答える。
「世界が一つになる瞬間まで。そのときはもうすぐです」
アイビーは空を見る。
赤く染まった太陽が、さらに赤みを増している。
ぼんやりとしているが、赤い。
夕焼けや朝焼けとは違う、赤。
「私が世界をつなぐための祈りをします。その瞬間まで、時間稼ぎを」
「了解した」
ネフロスは、銃弾を持って駆け出す。
パキラが続く。
プミラが続く。
アスパラガスは、チャメドレアを助けに行く。
タムが続こうとした。
アイビーに制された。
「タムは、別の役割があります」
「僕に?」
「そして、ベアーグラスにも」
ベアーグラスはうなずいた。
アスパラガスが、覚醒して、チャメドレアを助けて戻ってくる。
「頼むでがす、アイビーさん」
アイビーはうなずいた。
「みんな、役割があるんです。そうして世界は、ギミックのように動いて、つながるはずです」
アスパラガスも、怪物のほうに向かう。
チャメドレアは放心している。
「もうすぐです」
アイビーがつぶやいた。