取り型式百八式


会場に着くなり、刺さるような視線。
見知った顔からは挑戦的な、
見知らぬ顔からは、どれほどすごいのかという期待。
カルタの王子は、その視線の群れを気にもしないでつかつか進む。
エントリーをして、まずはシングルから。
視線を気にしていては、めんどくさい。
さっさと終わらせよう。
そして、ひつじ村やろうと、カルタの王子は考える。
なおかつ、ひつじ村のイベントどこまで進んだっけと、ぼんやり考える。

誰とも知らぬゲストをそれこそ秒殺すると、
会場から感嘆の声。
まだこの程度、この程度で満足しているカルタの王子じゃない。
めんどくさいの域を出ない。
ぜんぜん本気になれない。

クーロン住民の一種異様な熱気を傍目に、
カルタの王子様は、思い出せないひつじ村のイベントを思い出そうとする。
一見クールな王子様に映るが、
頭の中でブラミーをどうやって閉じ込めておくかを考えていたりする。
「王子」
いろいろひつじ村のことを考えていたカルタの王子に、
声がかけられる。
顔を上げると、クーロン老人会のサンダーがいた。
「次お相手いたします、サンダーですじゃ」
「よろしく」
サンダーが手を差し出し、
カルタの王子は何気なく握手する。

シングル、対サンダー戦。
札が配置される。
「王子。王子の取り方はひとつかな」
「どういうことです?」
サンダーはにやりと笑う。
「わしの取り方型式は、百八式まであるぞ」
「へぇ、そりゃすごい」
カルタ台が始まりを告げる。
読み上げられる文章の、始まりの一文字。
「とうりゃあ!」
サンダーが鋭い掛け声とともに、札を手にする。
カルタの王子は動かない。
そのかわり、
「思うに七十くらいかい?」
「七十四式、どんどんいきますぞ、王子」
「ふぅん、だいたいわかった」
次の文章の、最初一文字。
その一瞬、取り型を上げたサンダーも反応できない一瞬に、
カルタの王子は札を掠め取る。
「なっ」
「今の型は、八十かい、九十かい?」
「まさか…」
「早い取り型ひとつあればいい、俺は百八も要らない」
カルタの王子は笑う。
「さぁ、どんどん行こう」
文章は読み上げられ、カルタの王子はサンダーを圧倒した。

対サンダー戦、カルタの王子の勝利。


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