アズキばあちゃんの手
シングル戦も佳境。
カルタの王子をはじめ、かなりの使い手が残った。
パンダ店長の言うところの、
ダブルやチームに絞ってきている連中もいるのだろうから、
シングルで優勝したからといって最速なわけではない。
多少面倒でも、全部制覇してこそ、かなと。
カルタの王子は思い、
やっぱりちょっと面倒がる。
呼び出しがかかり、カルタ台へ。
座布団に先に座っているのは小柄なばあちゃん。
「王子、よろしく。あたしゃアズキばあちゃんだよ」
「よろしく」
「そうそうたる面子と戦ってきたんだね、王子」
アズキばあちゃんは微笑む。
「あたしは強くない。けれどここまで勝ち進んできた」
カルタの王子は、仮面の下で目を細める。
(つまりそれなりの使い手ってことか)
「お手柔らかに」
カルタの王子は挨拶する。
カルタ台が札を配り、開始の合図。
文章が読み上げられる。
カルタの王子はいつものように札を取る。
その伸ばした手に少しだけの違和感。
『お手つきです』
気がつくと、カルタの王子は、右隣の札に手を置いていた。
アズキばあちゃんが微笑む。
(なるほどな。取らせないってわけか)
カルタの王子は、一回おやすみ。
その間にアズキばあちゃんがゆうゆうと次の札を取る。
カルタの王子は、そのアズキばあちゃんの手をじっと見る。
「取れない気分はいかがですかな、王子」
「多少驚いた。けれど、大体わかった」
「ほう」
カルタ台が次の文章を読み上げる。
カルタの王子が反応し、アズキばあちゃんも反応して、
互いの右手が空中でクロスする。
「トリックハンドってところか、相手の初速に追いついて、少しだけ方向をずらす」
カルタの王子は左手で札を取り、
「方向をずらせばカルタではお手つきだ、シングルでは有効な手だ」
「いつ、気が付かれました?」
「最初とお手つき後の手の速度が違っていた。その違和感から引き出した答えだ」
「それでも、あたしの手が封じられたわけではありません」
「ああ、そうかもしれない」
カルタの王子は認める、が、
「俺の初速はまだ上げられる」
「なんですと!」
「すくなくとも、トリックハンドが追いつかない速度は出せる。要は札を先に取れればいい」
「理屈ではそうだけど、まさか…」
「試してみるかい?」
カルタの王子は不敵に微笑む。
対アズキばあちゃん戦。
カルタの王子の勝利。