最速のイニシャル
カルタの王子は考えていた。
ネジは桜のショックが抜けていないのか、ふらふらとしている。
このままでは勝てる試合も落としかねない、どうしたものかと。
「王子」
かけられる声は、先ほどの戦ったビブのもの。
「私をチームに入れてはくれませんか?」
「ああ、かまわないけど」
「必ずお役に立ちます」
ビブはぺこりとお辞儀をする。
「おー、おった、王子王子」
遠くからかけてくるのは、老人会の会長のチャンだ。
「アズキばあさんから伝言じゃ」
「伝言?」
「アズキばあさんが追いつくまで、わしをメンバーに入れてくれとのことだ」
「会長、腕のほどは?」
「まぁ、なんとかなるぞい」
チャンは、にししと笑う。
次の戦いは、
ハルミ、ルキ、ダガシのチーム。
ハルミはまず、デジタルデビルを召喚して使役しようとしたが、
いくらなんでも、そうやって味方が増えるのは、キリがないと判断され、
仕方ないから召喚したデジタルデビルは、後ろで応援するにとどまっている。
カルタ台周りがにぎやかになる。
ルキはそのにぎやかなデジタルデビルたちの後ろあたりに、
見慣れた背を見たような気がした。
騒がしいことは苦手だといっていた、あいつだろうか。
ちゃっかり応援に来ているのだろうか。
「ハルミさん」
「うん?」
「応援しているのは、どのくらい持つ?」
「まぁ、一試合持つよ。なにか?」
「応援されてるのっていいなと思っただけ」
「へへ、いいでしょ。ダガシさんも、張り切っていこう」
ダガシはうなずく。
カルタ台が開始を宣言する。
カルタの王子は、まず一枚を取ろうとする。
僅差でダガシが掠め取る。
「速いな」
「頭文字d(小文字)ですから」
「そういう速さのやつがいるのなら、遠慮なくいけるな」
「遠慮せずにどうぞ」
「お言葉に甘えさせてもらうよ」
カルタの王子は、深呼吸をひとつ。
そして、心のアクセルを踏み込むような気分。
ダガシが静かに微笑む。
速さと速さの札の取り合い。
そこに切り込んでいくチームのメンバー。
無駄のそぎ落とされた戦い。
ダガシのカルタを取る手を、
チャンがわずかに軌道を変えた。
アズキばあちゃんほど鮮やかでないが、
トリックハンドだ。
「ぜーぜー、まだまだ若いもんには負けんぞい!」
デジタルデビルも大騒ぎする中、
速さの戦いはカルタの王子様チームの勝利で決着した。