あと一勝
チーム戦も進み、
なみいる強豪を撃破して、
カルタの王子はあと一勝で優勝というところまでたどりついていた。
技も術もいんちきも、要は先に札を取ったもの勝ち。
そう、カルタの王子は思うが、
先に札を取るのがどうしてもうまくいかなくなるときがある。
頼れるのは自分の感覚かもしれない。
でも、仲間も頼れるものかもしれない。
店長はこれが言いたかったのだろうか。
「わからないな」
カルタの王子はつぶやく。
「何がですか?」
ビブが聞きつけて訊ねる。
「何でみんなこんなに熱くなってんだか」
カルタの王子の半ばあきれた発言に、ビブは微笑む。
「みんな王子を本気にさせたいんですよ」
「俺を?」
「いんちきも技を仕掛けるのも、王子なら越えられると信じているんですよ」
「迷惑な話だ」
カルタの王子はため息。
ビブがくすくす笑う。
「王子ー、やった、間に合ったぞー」
王子の元にかけてくるおばあちゃん。
アズキばあちゃんだ。
「会長、あたしの代わりをよくつとめてくださった」
「なぁに、若いもんにゃまだまだ負けんぞい」
チャンはそういって威張って見せるが、
試合が終わるたびに、しんどそうにしていたのを、カルタの王子は知っている。
「このアズキばあちゃん、トリックの腕を磨いて参ったぞ」
「それじゃ、決勝は出られるかな」
「もちのろんじゃ!」
カルタの王子の言葉に、
アズキばあちゃんはからから笑う。
決勝戦の呼び出し。
カルタの王子のチームは、王子を先頭に、二人が続く。
やんややんやの大騒ぎのカルタ台の周り。
王子が通るそこだけ、
海でも割れるように人がすっと避け、
カルタ台に王子を迎え入れる。
カルタの王子は相手を見る。
店長が噂を仕入れてきたギエン。
最速の異名を持つダガシ。
仮想空間ならば桜の一撃を使えるワガ。
ここは仮想空間ではないが、
何か使えると思って間違いないだろう。
それこそ、相手チームのメンバーすべてが。
そして、店長が噂で聞いたところの、
ギエンはチームに絞ってきたと聞く。
シングルでもダブルでも見なかった、その実力。
何をしでかしてもおかしくはない。
「王子」
ギエンが声をかける。
「カルタの大会も一夜の夢。夢に賭ける者がいること、おわかりかな」
「ああ、よーっくわかった」
カルタの王子は笑う。
そして続ける。
「この夢のために、この一枚の札のために、俺は勝ち、勝利の女神をさらっていく」
「できますかな?」
「やってやるさ」
カルタ台が、開始を宣言する。