教授の音色
ムダヅカインは、けがれなきゼニーの力を持った者を探す。
判断が確かならば今のところ三人。
それぞれに違ったゼニーの力を持っている。
彼女達なら、散財戦士サンザインとして、
金をうまく世界に回すことができる。
しかし、シッソケンヤークに立ち向かえるかというと、
それはまだまだだと、ムダヅカインは思う。
シッソケンヤークの力は強大だ。
この世界の消費が見る見る落ち込んでいくのを、
ムダヅカインはとめられずにいた。
この国をはじめ、質素倹約が美徳とされ、
自分のためだけに金の流れを止める。
当たり前のようになったその行為が、
経済を冷やしてしまっている。
シッソケンヤークは、そのことを気がつかないように隠蔽している。
ムダヅカインの耳に、優美な音色が届く。
弦楽器の音色だ。
音楽のことに詳しいわけではないが、
恐ろしいほど澄んだ音色だ。
ムダヅカインは音のあるほうを目指す。
澄んだ音色にあわせて、
ゼニーの気配も感じたからだ。
音は楽器店から流れ出していた。
ムダヅカインはそっと覗き込む。
若い男性がバイオリンを奏でている。
楽器がまるで自分の一部であるかのように、
華麗に弾きこなすさまは、優美だ。
最後の一音を長く、そして、奏で終える。
男性はため息をひとつついた。
「プロヴィニ教授、いかがでしょう?」
店員が尋ねる。
「いい音だね、申し分ない」
教授と呼ばれた男性は、答える。
そしてしばし考え、
「節約しろといわれているんだけどなぁ」
と、困ったようにつぶやく。
店員も困る。
「こんなご時勢ですからね」
教授はじっとバイオリンを見る。
バイオリンは静かにそこにあるのに、
何かと共鳴しているようでもある。
「…ヨーマ君には怒られるだろうけど、買うよ」
教授は微笑む。
「楽器との出会いは、一期一会だからね。逃しちゃいけないよ」
「そうですね」
「お金はそのために使うものだよ。貯めるためだけじゃないと思うんだ」
教授は静かに語る。
その教授に、ムダヅカインは紛れもないサンザインの素質を見た。