美しい便器


「いつも使う物が美しいっていいと思うのです」
ピンクの子豚が力説する。
ナプという名の、職人だ。
「それで、便器?」
アズが聞き返す。
今日は豚がかぶるといけないので、
緑のチャイナドレスの女性の姿だ。
ネタがあると聞いてやってきたが、
結構突拍子もないネタだ。
「だめかな?」
「いいと思うんだけど、便器、かぁ…」
「汚くしたほうが売れるかな?」
「わざと汚く?」
「うん、わざと」
「…ネタ職人だわ」
「ありがとう」
ピンクの子豚は微笑む。

「便器って、流通すれば国際的だと思うんですけど」
「そこまで狙っているの?」
アズは半ばあきれる。
「うーん、ある日どこかトイレに行ってみたら」
「いってみたら?」
「自分のデザインした便器だったらうれしいじゃないですか」
「そこまで見ているものかな?」
「見ないかな?」
ナプは首をかしげる。
アズはそれが面白いと思う。
ネタ職人というのは、
どこか目の付け所が違うということ。
ナプは、良きネタ職人だと、アズは思う。

「なんでもとにかく作ってみるものですよ」
ナプは笑う。
そして、店の外に気がつく。
「ハイいらっしゃい、便器その他もろもろありますよ」
ナプは商売豚の顔になる。
アズはそれをぼんやりと見ている。
商談だろうか。
ぼんやりとゼニーの力が流れ、
そして、きりっとナプの元に宿る。
(いいな、物が売れるって言う現象は)
サンザインの力だけでは限界がある中、
みんなが少しずつ余裕を持って、
ネタ物を買ってくれることは、ありがたい。

サンザインはまだ知られていない存在。
でも、散財の流れは、ちょっとずつだけど、ある。
正義の散財も限りがある。
みんなが少しずつ散財をしてくれれば、
それはとても大きなゼニーの力となる。
アズはそう思う。

「まいどありー」
ナプが商談を終え、お客を送り出す。
いいゼニーの力が宿っているのをアズは感じる。
便器ひとつにこだわるもの。
美しい便器を売りに出すもの。
そこにもゼニーの力はあるものだとアズは思った。


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