アンバランス


静かなバーに男が二人。
黒を基調にしているのは共通している。
かたや、へんてこなスコープをつけたスーツの男。
もう片方は、武術でもしそうな格好をしている。

「ぜにー?」
スコープをつけた男は聞き返した。
「ギエンさんでも、わからないか」
「わかりませんね」
答えて、ギエンと呼ばれた男は酒を飲む。
「リュウジ部長は、なんでまたそんな単語を?」
「最近流行ってるんだそうだ」
「では、何かの略語か隠語か」
「なんでも、ゼニーの力が大きいといいらしい」
「気の一種でしょうか」
「さぁな」
リュウジも酒を飲む。
「で、ゼニーの力で戦っている輩がいるらしい」
「物好きもいたものですね」
「サンザイン、…聞いたことはあるか?」
「少しは。あれがそうなのですか」
「らしいってことだ」
「らしい、ですか」
ギエンは特に興味を示した風もなく、
つまみを食べる。

「ギエンさんはどう思うよ」
「ゼニー?サンザイン?」
「いや、なんつーかな」
リュウジはちょっと考え、
「バランス的なものについて」
と、言葉にする。
ギエンは考え、
「世界は陰陽のバランスと、大きな流れでできています」
「ふむ」
「どちらかが大きくなりすぎてもいけないと、私は思います」
「超級風水師らしいな」
「職業ですから」
と、ギエンは答える。

「散財しすぎてもアレだし、節約しすぎてもアレだし」
「過ぎたるはよくないことです」
「まぁ、それはわかってる」
リュウジはそう答え、
少し考える。
「サンザインが強すぎてもいけないとは思う」
「英雄は強いに越したことはありませんけれど」
「バランスなんだよな、要は」
「そう、陰と陽が隣り合っていてバランスが取れていないといけない」
「どうにもアンバランスになる予感がしてならない」
リュウジはため息をつく。
「なんか、隠れてる気がするんだ」
「隠れて、ですか」
「なんか、バランスがくずれた先に、何か、いる」
「邪な気配は、感じています」
「よこしま…か」
「風水師なら邪気は感じます」
ギエンは答え、また、酒を飲む。
酔った様子はまるでない。

サンザインは世界を変えようとしている。
世界にゼニーとやらが回ればいいのか。
黒服の二人は、判別しかねた。


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