異形をうみだす


トマトと呼ばれる男がいる。
彼はとある雑貨屋を営んでいる。
様々のものを作っているが、
彼にはもうひとつ、側面がある。
異形を作り出すという、側面。
それは妄人(わんにん)と呼ばれる。
人が物に執着した成れの果ての姿だ。
トマトはそれを表現する。
人と物との境目が曖昧なそれを、
表現して売りに出す。

人を作り変えているのではなく、
様々の素材から、オブジェのように異形を作る。
それはさながら芸術家の作品のように。
(これは生きていない)
トマトはそう思う。
(だけど、これに命が入ったらどうなってしまうのだろう)
それは怖くもあり、
また、魅力的でもある。
人と物との間のもの、
バランスのすれすれのそれを、
トマトは見てみたいと思った。

バランス、そう、バランス。
異形の不自然なまでのバランスを、
トマトは愛している。
人が人でなくなってしまうその寸前。
物でも人でもない異形。
トマトは命を与えることはできない。
さすがに無理だと、半ばあきらめている。
…あきらめている、が。
トマトは数日前を思い出す。
ゼニーの力があれば、その異形に命を与える、と。
名前は忘れた。
誰だっただろう。
ただ、金属性のにおいがした。
金を回しているのか、叩いているのか、貯めているのか。
それはよくわからなかったが、
ゼニーの力というものがあれば、
この異形に命が宿るという。

町の喧騒がちょっとだけ聞こえる。
最近よく聞く、サンザインという単語と、
シッソケンヤークという単語。
なんだかよくわからないけど、
戦っているのだろうか。
世の中がどうなっているか、
トマトはよくわからないが、
ただ、喧騒からはいつも、金のにおいがした。

金さえあれば解決するのだろうか。
ゼニーの力というのは、そういうものなのだろうか。
それだけで片がつけば簡単かもしれない。
でも、売れればいいものではない。
特に、この異形たちは。
大事な作品達だ。

(自分で命を宿してみせます)
トマトは、名前を忘れた誰かに言うつもりになる。
(これはトマトの作品です)

異形のオブジェが、瞬きをしたような気がした。


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