コーヒーブレイク
プロヴィニ教授は、
小難しく書かれている文章に目を通すと、
ため息をひとつついた。
この文章に覚えがある。
ドアがノックされる音。
「どうぞ、あいてるよ」
ドアが開かれ、優雅に美女が入ってくる。
プロヴィニの友人の、マナトだ。
「珍しく難しい顔しているのね」
「そりゃあね」
「教授だから?」
「そりゃあね」
「騙されるものか…って顔してる」
「そうかもしれないな…うん、一息つこう」
プロヴィニは伸びをして、席を立つ。
「コーヒーある?」
「まずいコーヒーでよければ」
「コーヒーって、まずくいれられるものなの?」
「極めればまずいさ」
プロヴィニは笑う。
「以前は、おいしいコーヒーがあったんだよ」
「へぇ…」
「ずば抜けて才能のある助手がいてね」
「例の子?」
「かもね」
マナトの脳裏に少年が一人。
ゼニーの力の強大な、ヨーマという少年。
シッソケンヤーク側についていたと記憶している。
「今どこで何をしているやら」
「平和なんだから、それなりにしているんじゃない?」
「帰ってきてくれないと、コーヒーがまずい」
プロヴィニは困った顔をしてみせる。
「コーヒーがまずいだけじゃないでしょ」
「あとは論文の盗作疑惑を看破するくらいの…」
「違う違う」
マナトはそれじゃないという。
「さびしいんでしょ、要は」
美女の指摘に、教授は困ったように笑う。
「ヨーマ君はね、本当にできる子だった」
プロヴィニはそれ以上語ろうとしない。
コーヒーを入れるのがうまい、
盗作疑惑を看破するほどの目利き。
そして、戦いのさなかに感じた、
強大なゼニーの力の持ち主。
マナトは話題を少し変えることにした。
「盗作?」
「うん、論文代行か、あるいはコピーペーストかな」
「せせこましいことがあるものね」
「目先の単位に踊らされて、失うものをわかっていないね」
プロヴィニはコーヒーを入れながら語る。
「信頼を失うのが、一番怖いことだよ」
マナトにコーヒーが渡される。
「ありがと」
そのまま口にすれば熱く苦い。
マナトは何も言わずに飲む。
確かにまずい。
でも、ブラックがいい。
「コピーといえば、コピー商品の詐欺があるみたいなの」
マナトは噂話をする。
プロヴィニはまずいコーヒーを飲みながら、
話に耳を傾けているようだった。