彼女の悲しみ
ワガは新聞を何度も見直した。
そして、それが間違いでないことを確認すると、
彼女は悲しんだ。
涙は不思議とあふれ出ないものだと、
ワガの頭の端っこがそんな分析をしていた。
募金詐欺がいくつも摘発されていて、
ワガは摘発されたその募金詐欺の一つ一つを覚えていた。
それは、ワガが祈りをこめて募金をしたものに相違なかった。
病気が治りますように、
自然が豊かになりますように、
子供達のために役立ててください、
祈りをこめて投じたものが、
全部詐欺だった。
ワガは悲しんだ。
祈りを踏みにじられた気分だと感じた。
悔しいと思うし、
悲しみも嘘ではない。
それでも、心に暗い影が落ちるのを感じる。
だめだ、と、ワガの心のどこかが思う。
(私は、サンザイン、みんなのヒーロー)
ワガは心で唱える。
ヒーローだから騙されていいのか、と、心の影は言う。
影はワガの心を蝕まんとする。
信じない、誰も信じない。
信じれば踏みにじられる。
ワガは頭を振る。
信じてこそ今の平和があると、
それをワガは信じている。
影はなおいっそうワガの心を蝕もうとする。
「郵便です」
ワガはその言葉にはっとする。
心の影もその瞬間、どこかに隠れたようだ。
「はい」
「ええと、ワガさん?」
「ええ、私です」
「こちらの手紙になります」
郵便屋はそういって、封筒を渡す。
「いい手紙ですね」
「え?」
「郵便屋にはわかるんです、では」
ワガは封筒を開ける。
中には、便箋いっぱいの感謝の言葉。
ありがとうと、
あなたの募金のおかげで救われたと、
新聞に載っていなかったどこかの募金の、
救われたという感謝の手紙だ。
ワガの目に、涙。
信じるって、こんなに大事なことだったんだ。
悲しみよりも、この手紙があたたかくて、
涙がたくさんあふれてくる。
私はサンザイン。
みんなのために散財をする。
騙されているかもしれない。
詐欺かもしれない。
それでも。
平和になった世の中、
新聞に詐欺の載らない日はない。
それでもワガは募金することをやめないだろうと思う。
それがワガのとった献身のあり方の道だし、
悪の形がない中、
ワガが戦えるすべだと、
ワガはそう信じている。
私は、サンザイン。
ワガはもう一度心につぶやく。