パチモンおもちゃ


マジカル・マイの撮影を終えたマイは、
一路、師匠のハリーの店を目指していた。
今日も調子よく撮影ができた。
くるっと回って決めの微笑。
これ以上ないくらいできたと思っている。
でも、と、思う。
心の影っぽいものが、くすみを生み出しているような、
そんな感じが、ある。
子供達はそういうことに敏感だ。
顔色を伺うというのではなく、
本能というか直感というか。
マイは子供達のヒーローだ。
マジカル・マイは心に影を持ってはいけない。
こういう、くすんだ思いは。

ハリーの店「針屋」に、ハリーはいた。
のんびりと何か考えている風でもあり、
見ようによっては次の獲物を考えている風でもある。
ハリーはマイに気がつき、
「おつかれ」
と、何気なく声をかけた。
「お茶でもいれるかい?それともジュースがいいかい?」
「それじゃ、ジュース…」
「クマ印ジュースがあるんだ。好きなのをどうぞ」
ハリーは弟子というより子供を相手にするように、
いくつかジュースを差し出す。
マイの心にはそれがありがたい。
怪盗ハリーホワイトローズの一員としてでなく、
そして、マジカル・マイというヒーローでもなく、
癒されるというのは、心地がいいものだと思った。

りんごのジュースを口に運ぶ。
過剰な甘さが染み入る感覚。
喉を潤して、ため息をひとつ。

「ささくれだってるね。マイさん」
ハリーは見抜いている。
「パチモンおもちゃが出るのは、やっぱり嫌だね」
マイはうなずく。
マイの心の曇りは、
少し前から出回っている、
『マジック・マイド』という、似たもののおもちゃのことだ。
マイだけなら、別にどうということもない。
でも、これをつかまされた子供達がどんなに嘆くことか。
それを思うと心が曇るし、ささくれる。
どうにかしたいと思う。
騙して儲けるという大人というものを、
マイはこれほど、ひどいものだと思ったことがなかった。

ハリーはふふんと微笑んだ。
「どうせなら、盗んじゃおうよ」
「師匠?」
「向こうが子供達を騙す気なら、正当な手は踏まないよ」
ハリーの眼帯のないほうの目に、剣呑な光。
「やつらのすべてを、盗んでやろうよ」
唖然とするマイ。
そして、楽しげに鼻歌すら歌うハリー。

きっとこの師匠は全部盗んでしまう。
確信に近い予感。
この師匠を敵に回すということは、
そういうことなんだとマイは思った。


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