疑惑の噂


世界にはバランスよくゼニーの力が満ちている。
ヒーローはいらないのかもしれないと、ヘキは思う。
でも、心をよぎっていく暗い影は何だろう。
平和の裏側を行く、
何かはっきりしない感覚は何だろう。

ヘキは飯店にやってきた。
ルルとアズとワガがいる。
エノもサンダーもいる。
大体いつものメンバーだが、
どうも雰囲気がよくない。
アズにいたっては泣きそうな顔をしている。

「どうした」
ヘキは聞くべきだと思った。
ムードメーカー的存在のアズが、
泣きそうになるなんてと、ヘキは思う。
「…騙されたの」
アズはポツリとつぶやく。
それ以上語ろうとしない。
沈黙がアズのつらさを語っている。
聞き出すのは、傷口をえぐることになる。
だからヘキはそれ以上聞けない。

「あたし達はサンザイン、みんなのために散財する」
アズはつぶやく。
己に言い聞かせるように。
「でも、こんなことのために散財する気なんてなかった!」
アズの強い目が、涙でぐしゃぐしゃになる。
ワガは言葉を選んで、また、黙り、
ルルはため息をついた。
「…ヘキさん、新聞は読んでる?」
ルルが話し出す。
「いや、そういうのはさっぱりだ」
「このところ、詐欺が横行しているのは?」
「それは知ってる。一応はな」
「うん、それで感じたんだけど…」
「何かあったのか?」
ルルは感覚を言葉にしようと考える。

「ゼニーの力がどこかに消えていっている、でしょうか」
男の声。プロヴィニが入り口にいる。
「教授も来たのか」
「ええ、ただならぬ気配と…噂がありました」
「うわさ?」
みんなの視線がプロヴィニに集まる。
「疑惑の種というものをまいている老人の噂」
「老人?」
「噂です。嘘かもしれない。けれど…」
プロヴィニはちらりとサンダーを見る。
「最近サンダーさんがあちこちに出歩くのを、少し気にしています」
サンダーは聞こえなかったかのように、皿を拭いている。
プロヴィニもそれ以上追求しない。
「まぁいいでしょう、それから、もう一件」
「もう一件?」
「裏を取っている最中ですけれど」
プロヴィニは言葉を区切り、
「一連の詐欺がつながっている可能性」
「そう…なのか?」
「わかりません、けれど、詐欺はゼニーの力を奪っています」
「それじゃ、ゼニーの力を欲する何かが…」

「それはサギーという奴だよ」
サンダーはつぶやく。
皆が一斉にサンダーを見る。

サンダーは視線にも気がつかないように、皿を拭いていた。


次へ

前へ

インデックスへ戻る