助ける王子様


「それじゃあねー。王子様」
ハリーは愉快そうに言い残して去っていった。
「誰が王子だ誰が!」
ユックは大声でツッコミを入れ、
恨めしそうにハリーの立ち去った先を見て、
ため息を大きくついた。
「何なんだよ一体…」
何か悪いことをしたか、と、
いるのかわからない神様に恨み言も言いたくなる。

少し前に戻って、
ハリーの言ってきたことは、こうだ。
「マジカル・マイを助ける役が欲しいんだよね」
「ふーん」
「魔法少女を助ける王子様って、いいんじゃない?」
「ふーん…で?」
「がんばれ王子様というわけだよ。ね?」
「は?」
超展開にユックはついていけない。
「撮影には正体不明の王子様って言っておいたから」
「なにがどうなってそうなる?」
「ん?売り上げのための、人助けが好きなんじゃないの?」
「それとこれとは別だ」
「テレビでCM入れてもらうからさ、絶対売り上げ伸びるよ」
「CM入ったら、正体ばれるじゃないか!」
「がんばれ王子様」
「だからなんでそうなる!つうか、正体不明なんじゃないのか!」
ハリーは愉快そうに笑い、
「撮影は来週だよ」
「誰が行くか!」
「それじゃあねー。王子様」
と、ハリーが立ち去ったところで冒頭に戻る。

ユックは心で呪詛の言葉を唱えつつ、
もくもくと掃除をする。
売り上げのためには、と、人助けをすればこうだ。
サンザインのピンチに現れるんじゃなかったと、
いまさらながらに思う。
今度はテレビで、こっぱずかしい王子でまた助けろという。
誰がやるか!

「あのー…」
小さな子どもの声がする。
「うん?」
店の入り口に少女が、いる。
大事そうに持っているのは、マジカル・マイのステッキだ。
「いらっしゃい」
客かもしれないし、営業用の声で答える。
「あの、ここにかっこいい王子様がいるって」
「ごめんねー、ここにいるのは店長か俺だよ」
「王子様が、みんなを助けてくれるって」
「みんなを?」
ハリーの話では、マジカル・マイではなかったか。
「みんなを助けてくれるの。シャノね、そう信じてるの」
シャノと自分のことを言う少女は、疑いない目でユックを見る。
「王子様に伝えてください。シャノもお友達もみんな信じてると」

シャノが去った店先で、
ユックは、来週の予定を考え始めた。
…撮影の時間は取れそうだと。


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