異形図鑑


鬼律(グイリー)と呼ばれる、
いわゆるモンスターみたいなものがいる。
一人の風水師が、
その鬼律の図鑑を作っている。
ダガシという超級風水師。
師と仰ぐギエンは、何かの気配を感じてどこかにいった。
ダガシは師に近づくべく、
まずは鬼律の退治からはじめて、
鬼律がどういうものなのかを分析している。
姿をカメラにとり、
属性を分析し、
ひとつひとつ図鑑におさめていく。

鬼律は、いわゆる異形の一種である。
打ち捨てられた「もの」に、
邪な気配が宿り、
物悲しいモンスターに成り果てたものだ。
師であるギエンは、もっと大きな気配を感じたらしいが、
ダガシは、その大きな気配までは感じ取れない。
師が師である所以なのだろうし、
ダガシは今日も鬼律を追って退治している。

路地裏に、ダガシは鬼律の気配を感じた。
いってみると、見たことのない鬼律。
そこに、あまり見かけない男の姿。
誰だろう。
声をかけようとする、それより先に、
風水師としての動きが出てしまう。
鬼律は邪な気を発する。
一般人はひとたまりもない。
ましてやこいつは見たこともない奴。
早く退治しなければ!
使命感に燃えるダガシは、鬼律を分析して、退治するのを、
呼吸のようにやってのける。

鬼律は、邪な気を失い、
おもちゃのような、物に戻る。
「さすがですね」
男は言う。
「クーロンの風水師はさすがですね」
男は人がいい笑みを浮かべる。
この笑顔に邪気はないと、
ただ、うしろに何か譲れないものがあると感じる。
「あれですか?お金をもらってやっているのですか?」
「いえ、超級風水師だからです」
ダガシはきっぱり答える。
男はうんうんとうなずく。
「そうですね、この街の住人なら、そうなんです」
「あなた、は?」
ダガシはたずねる。
「妄人を作ったり、カードを作ったりしている、トマトというものです」
「トマト、さん」
「鬼律を作ったりと思ってみましたが…さすが仕事が速いですね」
トマトはくすくすと笑う。
「ギエンさんが感じた気配は…」
「気配?」
「いえ、何かよくない気配を感じたようで…トマトさんではないですね」
「違うでしょうね。あの人もまた、職業風水師ですから」

懐かしそうにトマトは言う。
あまり見かけないトマトという男も、
もしかしたら異形の一種なのかもしれないと、
ふと、ダガシは思った。
騙されてはいけない。


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