疑惑の変質


疑う心は目を曇らせると、
プロヴィニあたりが言っていたなと、ヘキは思った。
なら、自分の今の目はきっと曇っているだろう。
ヘキは無意識に瞬きをしている。
目がはれるわけでないのに。

サンダーは外出することが多くなった。
それとともに増えていくような、詐欺の被害。
裏づけを取ろうとしているプロヴィニ、
騙されたと失意にある、アズ。
アズに慰めの言葉もないワガ、
無鉄砲に散財しかねないルル。
そして、みんなをまとめられないヘキ。
ばらばらもいいところじゃないかと、
ヘキは自嘲する。

それもこれも、噂が悪いんだと、
ヘキは責任転嫁をする。
変な老人が疑いの種をまいているなんて、
そんな噂が悪いんだ。
疑う心があるから、
詐欺が増えていくんだ。

静かに心が連鎖していく。
悪いほうに悪いほうに。
疑うほうに、疑うほうに。
それはよくないことだと、みんなわかっている。
わかっているけれど、
その連鎖をとめられないでいる。
誰だ、これを仕掛けたのは誰だ。

ヘキは飯店の席について、
ため息を大きくついた。
「元気ないですね」
エノが何か作ってくれるらしい。
サンダーはまた外出。
エノにも疑う心はあるだろう。
それを押し隠して、エノは気丈に振舞っている。

「…噂、聞きました?」
「もうどんな噂がきても驚かないよ」
ヘキは強がって見せる。
もう、だいぶ心が疑うことで疲弊しているのに、
それを隠すのは、やはりヒーローだからか。
「…驚かないでくださいね」
「だからなんだよ」
「一連の詐欺の黒幕は、サンザインだって言う噂、です」
ヘキは言葉もなくす。
間があり、
「なんだよ、それ…」
「散財する連中が、小金稼ぎに詐欺をしているって」
「俺は!俺たちは!」
ヘキは怒鳴る。
「わかってます!」
エノも叫ぶ。
悲鳴のように。

ヘキはそれを聞いて後悔した。
エノも怖いのだ。
ただでさえサンダーが不在がちだというのに、
疑いがあちこちからむけられている。
ともに戦ったサンザインも、サンダーも、
疑われてしまっている。
つらいだろう。

「…ごめん」
ヘキは一言謝るが、
言葉が届いたとは思えない。
変質した疑惑は、容赦なく信頼を奪っていった。


次へ

前へ

インデックスへ戻る