そのていど
とある喫茶店らしいところ。
マナトは情報を提供しに、ある人物と待ち合わせをしていた。
「…って言う噂」
マナトは仕入れた噂を語り終えると、
金色のジンジャーエールを口にした。
要点を言うと、サンザインが詐欺を働いているという噂だ。
噂を語られていた少年、ヨーマは、
なんとも難しい顔をしている。
「ひどい噂ですね」
「その手の業界では、サンザインバッシングが始まってる」
「そう、ですか」
「持ち上げたのを落とすのが好きなのもいる」
「そういう下卑た大人にはなりたくないですよ」
ヨーマはそういうと、コーヒーをブラックのままで飲もうとして、
そのあまりのまずさに顔をしかめる。
「ミルク入れる?」
ヨーマの隣で、ネコヌが声をかける。
「いや、コーヒーはブラックがいいんです」
ヨーマは意地になってブラックを飲もうとして、顔をしかめる。
「教授のところのコーヒーもまずかった」
マナトは独り言のように言う。
「教授はそういうところがあります」
ヨーマも独り言のように返す。
「多分サンザインバッシングで、教授も疲れているわよ」
「そうかも知れませんね」
「おいしいコーヒーが出迎えてくれたらいいんじゃない?」
「あなたがいれればいいでしょう、マナトさん」
「コーヒーはいれてもらうものが、ポリシーなの」
ネコヌは二人を見比べて、
「ほよぉ」と、のんびりつぶやく。
「大体、詐欺事件が多すぎて、みんな麻痺しかかってるんですよ」
ヨーマはまずいコーヒーを飲み干して、そんなことを言う。
「どれもこれも、小額にして信頼を破壊していますね」
「さすが元助手ね」
言われたヨーマは少しだけ得意げな顔をして、真顔に戻る。
「とにかく、サンザインの手口ではないですね」
「まぁね」
「だとしたら、サンザインの信頼を失わせようとしている誰かがいる」
ヨーマは目を閉じて考えに没頭する。
誰か、誰かがヒーローを不在にしたがっている。
一体誰だ。
冗談のような詐欺の多さ。
見る見る失われていく信じる心。
金の流れが悪くなっていくのを感じる。
「サンザインは幼稚なヒーローです」
ヨーマは断言する。
「この一連の詐欺は、もっと周到な冗談ですね」
「ふぅん…たとえばヨーマ君が作るような?」
「それこそ冗談」
ヨーマ少年は微笑む。
「僕はその程度の小金で満足するような性質じゃないんですよ」
少年に、ゼニーの力は相変わらず禍々しいほど満ちていた。