信念というもの


リュウジはとある場所で稽古をしている。
リュウジはいわゆる武術家である。
平和なこの世の中、
実際に戦うことはあまりない。
でも、健康に生かせるんじゃないかと、
たまに病院などにポスターを貼ってみたりする。
まぁ、興味を持ってくれたらそれがいい。

詐欺が横行する世の中。
ひどい噂を広める連中がいる中。
自分で得たことが自分の力にちゃんとなるということを、
理解しているのはどのくらいいるだろう。
経験や、体得というものの大切さを、
わかっているのがどのくらいいるだろう。
そして、どんな奴でも、痛めれば痛むということを、
想像できるやつはどれだけいるのだろう。
攻撃すれば返されるということを、
安全圏から陰湿に攻撃している奴は、
まったくわかっていないんだろうと思う。

リュウジは一通り動きを終え、
ため息をひとつ。
今日のため息には少し理由がある。
「…サンザインをやっつけてくれ、か」
リュウジはあまり愉快な心地がしない。
当り散らすほど子供ではないが、
流せるほど大人ではない。
稽古中にかけられたその言葉が、
リュウジの内側でもやもやとする。
(気に入らないなら、てめぇがやれってんだよ)
リュウジは黙ったままで毒づく。

いくらヒーローだとは言え、
サンザインってのも化け物じゃないだろう。
持ち上げられて、落とされる。
心が折れるようなことになるんじゃなかろうか。
リュウジは噂でしか聞いたことのないサンザインを思う。
同情はしない。
ヒーローになるってのはそういうことだ。
けれど、こうして噂に流されていく連中がいて、
どうもリュウジは気に入らない。

「まぁ、俺にゃ関係ないこった」
サンザインを助ける気なんてさらさらない。
でも、いやな噂に流されるのはもっと癪だ。
リュウジにはリュウジなりの信念がある。
これを折る気はさらさらない。
この噂が蔓延している今というのは、
サンザインにとっての試練なのかもしれない。
(越えてみせろ、仮にもヒーローになったんだろ)
リュウジは見ていようと思う。
助けはしないけれど、やっつける真似もしない。

最後に信じるものは何なのか、
気がつけばサンザインも強くなれると、リュウジは信じている。


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