なんのために


ヘキが荒れている。
ラクはそんな噂を聞いた。
噂といえば、ひどい噂が蔓延していて、
サンザインが皆を騙しているという類のものは、
もう、聞きなれた物になってきていた。
サンザインを貶める噂は、
どんどんひどくなっていく。
ラクは心を痛める。
一人の正義のカリスマであったヘキが、
今、攻撃の対象にされている。

地下バーで大騒ぎが起きなくなって久しい。
ダンパもずいぶんしなくなった。
ラクはそんなことを思いながら、
ゴミだらけになってしまった地下バーにやってきた。
「ここにいたんですね、団長」
ヘキは酒を飲んでいる。
だいぶ回っているのは、明らかだ。
「ラク…」
「酔い覚ましに飛びませんか?」
「吐いても知らないぞ」
「俺の運転をなめないでください」
ラクは笑う。
ヘキもつられて笑う。
その笑顔は、笑うということを、
ずいぶん忘れていたような、
ぎこちなく痛々しい笑みだった。

ラクはヘキを後ろに乗せ、
空飛ぶバイクで空を駆ける。
何もかもを忘れるように、
スピードを上げ、自由に。
高度を上げてみたり、
宙返りをしてみたり。
ラクのそれは、ヘキの鬱屈を吹き飛ばさんばかりに、
荒々しく、ひとつの嵐の中心であるかのように。

「ラク…」
「はい」
ラクは少しスピードを落とす。
「俺たちは間違ってたのかな」
空の上でしか聞けないであろう、カリスマの弱音。
「団長」
「うん」
「世界を一度救っているじゃないですか」
ヘキは黙る。
それすら、ヘキ自身信じられないのかもしれない。
「サンザインは…」
ラクはちょっと言葉を探し、
「まだ、成長できると思うんです」
「俺が未熟みたいな言い方だな」
「すみません、でも…」
「わかってる、まだ上があるってことだろ」
ヘキは空を見る。
どこまでも上がある空。

以前はラクのこのバイクで、
空にいる怪人を倒したこともあった。
今度の敵はどこにいる。

「俺、何を信じていいか、見失いかけてる」
ヘキはつぶやく。
「仲間はばらばらになるし…俺がまとめなくちゃならないのに」
ヘキは唇をかみ締める。
「俺、リーダーなのに…」

「団長」
ラクが言葉をさえぎる。
「サンザインは、ヒーローだと、俺は信じています」
「…信じて、くれるのか?」
ラクはうなずく。

「もう少し飛びましょう」
ラクはバイクを走らせる。


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