悪は誰だ


グリフォンは、ネジを迎えにいく。
ネジは最近お屋敷からちょくちょく外に出ては、
時間をつぶして帰ってくる。
あんまり遅いときは、グリフォンが迎えにいく。
機械の身体を慣らすためとも思い、
グリフォンはてくてくと歩く。

「まぁ、サンザインってそんな悪いことも?」
グリフォンの耳に、噂話が飛び込んでくる。
生身の身体のように、
都合の悪いことを聞こえないシステムに、
できないから聞こえる。
サンザイン。
彼らは正義のヒーローだ。
それはもう、過去の話かもしれない。
いまや噂話の中では、
サンザインは詐欺を繰り返す悪党になっているという。
グリフォンは、何度もサンザインにひどい目にあわされてきた。
でも、奴らも何か信じるところがあったのだろうし、
結局のところ、みんなで世界を救った。
間違ったことは、
シッソケンヤークも、サンザインもしていなかった。
誰も間違っていないと、
当事者のグリフォンは思うのに、
噂は暴走して、サンザインを悪に仕立て上げようとしている。

「そうらしいんです、サンザインがサギーという奴を…」
誰かが話しているのを、グリフォンは聞いた。
つかつかと歩み寄ると、
噂話が渦を巻いているような感覚に陥る。
機械のバグかもしれないけれど、感じる。
噂が好き。それ自体は悪ではない。
ただ、発生させているのは、よくないものだ。

「老人が疑いの種をまいているって話はご存知ですか?」
「そうなんです、その老人も怪しいですよね」
「サギーってものの存在を、老人は知っているんですよ」
「サンザインとグルの可能性もありますね」

グリフォンは、噂を語っているそれを、人形と勘違いした。
らしい、らしいと、繰り返すその人物を、
グリフォンは一瞬、人と感じなかった。
それは人形のような目をした男。
彼はグリフォンを見ると、笑った。
普通の微笑み、ただ、少し現実離れしている。
「ご存知ですか?」
彼はなおも噂をつむごうとする。
「何にも知らないよ」
グリフォンは答える。
「おや、聞きたくないのですか」
「嘘は聞きたくないよ」
「あくまで、噂、ですよ」
グリフォンは、彼に何かの気配をちりりと感じた。

「誰だ、あんたは」
グリフォンが問う。
「ヨシロクって言います」
ヨシロクは人形の目で、また、微笑んだ。


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