手紙


郵便屋は、ひょいと大きな箱を取り出した。
どこにあったのだと思うくらい、大きな。
箱を振って見せると、紙の音ががさっとして、
ぱかっと箱が開き、
覗き込んだサンザインを、
とんでもない量の手紙の嵐が包む。

思わず身構え、目を閉じる。
「サンザイン」
語りかける声。
「負けないで、サンザインは、ヒーローだから」
「がんばれサンザイン」
聞こえてくる、声。
郵便屋が笑った気がしたが、
手紙の嵐に掻き消えてしまった。

ヘキは目を開ける。
飛び込んでくる手紙。
それは、子供の書いた赤いサンザインの姿。
徹底して赤いクレヨンを使ったのだろう。
描かれた赤いサンザインは、
力強く、まっすぐだ。

「これは…」
「子供達のファンレターですね」
プロヴィニが言わなくても、
みんなには痛いほど伝わっている。
信じている、がんばれ、負けるなと、
覚えたばかりの文字や、
描かれた絵や、
大人から見れば破綻した文章から、
まっすぐな心が伝わってくる。

今まで助けてきた子供達が、
こうしてサンザインを信じ、
手紙という形にして送ってくれる。
それはサンザインに勇気を与える。
サンザインの目に力がともる。
身体には力を、魂には熱を。
子供達が教えてくれる。
サンザインはヒーローだと、憧れだと、
決して、負けないということを教えてくれる。

まだ、信じてくれる人がいるじゃないか。
信じあえる仲間がいるじゃないか。
何も疑うことはない。
何も失ってはいない。

「俺たちはサンザインだ!」
ヘキが叫ぶ。
仲間はうなずく。

噂が何だ。
俺たちはここにいる。
逃げも隠れもしない。
サンザインはここにいる。

「散財!」

彼らは変身をする。
人の目を覚まさせるために。
信じる心を取り戻させるために。
飯店の入り口から、
いっせいに暴徒と化した人々がなだれ込んでくる。

(サンザインは負けない)
(たとえ、姿のない敵であろうとも)
(信じる人がいる限り)
(守るべき笑顔がある限り)
(サンザインは負けない!)

心はひとつに。
彼らの強い信頼の心は、新しい力をうみだす。
無から、有が生まれた。


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