冗談にならない


邪な気配は、
ヨシロクを破壊し、
サンザインたちの光の龍を前にしてなお、
深い闇をたたえてそこにいる。
正体不明の存在、
ただ、悪い気配はびりびりと感じる。
ゼニーの暗黒面なんて生易しいものじゃない。
もっと悪意に満ちた、
もっと周到に準備された、
悪そのものの感覚。

『気分は悪いかい?諸君』
正体不明の声は、サンザインたちに語りかける。
『私はとてもいい気分だ。すがすがしいね』
「何者だ、お前は!」
レッドが叫ぶ。
ただ、口を開いたそこから、
からからに乾いていく感じがする。
空気をうかつに吸うと、
悪に染まる感じさえする。
ギエンの言っていた、邪気というものはそういうことなんだろうか。

『私は…そうだね』
悪はもったいぶる。
楽しそうに。

『ガタリ・クールジョーク』

悪は名乗る。
『君達が翻弄された、ガタリの名前をもらうよ』
悪は笑う。
『今回の冗談はいかがだったかな』
『サンザインが悪になるのもいいだろう』
『信じていたものに裏切られたりするのもいいだろう』
『気持ちのいい冗談だろう。私はこういうことが大好きなんだ』

悪は笑う。
意味のない意味に満ちた言葉。
ただ、うかつに手を出せば、
そこから心がやられていくであろうことがわかる。
手を出せない。
相手は強大な、悪、そのものだ。

『さて、私はこの世界を満喫させてもらうよ』
『世の中バランスが取れていないとね』
『正義だけの世界も面白くない』
『悪には悪のバランスがあるのだよ』
『信じるばかりが力でない』
『この悪という存在に、サンザイン、お前達は何で対抗する?』

悪のガタリは高らかに笑った。
『まぁ、せいぜいあがくがいい。とても楽しみだ』

ガタリは拡散してどこかにいった。
消えてはいない。
悪そのものの存在が、
世に放たれた瞬間だった。

誰にも止められなかった。
真の悪が発生するのを、
誰も止めることができなかった。

強い力を手に入れたはずの彼らが、
さらに強い敵を目の当たりにした。
ガタリは危険だ。
そして、今の彼らではどうしようもない。

龍がほえる。
いろいろな感情をぶちまけるように、ほえる。
それをガタリはどこかで笑っているのだろう。
そう思うと、彼らは悔しかった。


次へ

前へ

インデックスへ戻る