真似の力


「郵便です」
エノのいる場所に、たがえることなく郵便屋は訪れる。
作業中のエノは、作業をいったん止めると、
郵便を受け取り、届いた郵便物の中身を確かめる。
制作物の部品が届いていた。
「うん」
エノは傷のないそれに一つうなずく。
いつものことであるが、この郵便屋は腕がいい。
この町のことを知っているかのように、
きっちり仕事をしてみせる。
それはとってもかっこいいことだなとエノは思う。
ふと気がつくと、いつもなら届けたら風のように次のところに行っている郵便屋が、
鞄の中を覗き込んでいる。
「どうしました?」
エノは声をかける。
「あなた宛にもう一通。ムダヅカインという方をご存知ですか?」
「ええ」
エノは知っている。
どこかにまだ生きているかもしれない、
無駄遣いをする術師。
彼から手紙だろうか。
それでも、と、エノは思う。
「郵便屋さんでも、わからない方がいるんですか?」
「わかりません、気がついたらこの手紙があったもので」
「とにかく、ムダヅカインさんのことはよく知っています」
「そうですか、ならばよかった」
郵便屋はエノに手紙を渡す。
郵便屋の微笑みは、懐かしいものに感じられた。
どこかで見た気がする。
「あの」
エノが声をかけるよりも早く、郵便屋は風のように次の配達先に向かっていた。

エノはそこに一人取り残され、しばしぼんやりする。
気を取り直し、手紙の表裏を見る。
エノ宛になっていて、差出人は確かにムダヅカイン。
開封すると、便箋が折りたたまれている。
あわてて書いたものらしく、なぐりがきに近い。

突然の手紙で驚かせてすまない。
この世界に、よくないものが蔓延しようとしている。
ゼニーの力に取って代わる、
マネーの力というものだ。
マネーの力は、物事を考えずに、
物真似をするものに生じやすい力だ。
物真似ゆえに操ることがたやすい。
真似をするものに気をつけろ。
コピーをさせようとするものに気をつけろ。
マネーの力で世界をどうにかしようとする存在がいるはずだ。
ゼニーは信頼の力。
その力の戦士たちに伝えてくれ、頼む。

手紙の最後には、やはりなぐりがきのムダヅカインの署名。
「マネーの力」
エノはつぶやき、
「とにかくみんなに伝えなくちゃ」
エノは制作の手を一時止め、
町の中へ駆け出していった。
しかし、ムダヅカインはどこにいるのだろう。
疑問がないわけではない。
それでもエノは走る。


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