手を


ルルはカウンターに肘をつき、手を開き、閉じる。
この手にはゼニーの力がある。
誰も真似できないはずの、ルルの力がある。
散財を通してつちかってきた力がある。

ルルはサンダーのバーで考え事をしている。
サンダーに代わって店番という立場ではあるが、
そんなに頻繁に客が訪れるわけでもなく、
ルルはエノの報告を元にした考え事をしている次第だ。
手を開き閉じる。
ガタリというあいつは何をするつもりだろう。
サンザインの力で何とかなるだろうか。
このゼニーの力で、胸糞悪いあいつを打ち倒せるだろうか。
サンザインが決定的正義でないことは、
少し前に思い知った。
でも、正義を貫きたいと思う。
それはルルの正義であり、押し付けられた正義ではない。
ゼニーを回すことは、ルルの性分に合っている。
それが信頼に裏打ちされているのがよいことだとルルは思う。
ルルは考える。
手を開き閉じる。
美しい顔には、少し硬い表情。
誰もいないバーで、ルルは考え事をする。

真似をするのが悪とは思わない。
ただ、真似ばかりするのは、悪用はされやすいとルルは感じる。
物を考えない真似という行為は、
簡単に利用されてしまう。
考えることの裏打ちのない、信頼すらない、
ゼニーのまがい物。
ルルのマネーの力に対する印象は聞いた限りではそういうものだ。
考えないことは、とても楽なことだと思う。
責任がないんだから、本当に楽だ。
ルルはその楽なほうに流れたくない。
考えないことは、
この町で言うところの物になるということであり、
ヒーローであることはおろか、人であることも捨てる行為だと、
少し大げさにルルは考える。
手を開き閉じる。繰り返し、ため息を一つ。
考えすぎかなと思った。

ドアが開き、サンダーが帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり、ダー様」
「誰も来なかったのかい?」
「ええ」
ルルは笑う。大輪の花のような笑顔。
いろんなことを真剣に考えていたことは、おくびにも出さない。
「それじゃ、散財にいそしんできます」
ルルは身を翻し、ドアに向かって歩く。
「一人で悩んでもしょうがないよ」
サンダーはそっと一言かけて、カウンターに入る。
ルルは一瞬立ち止まり、振り返る。
「いっておいで、サンザインが散財しなくちゃ」
サンダーはいつものように微笑む。
ルルは己の手を見る。
閉じ、開き、その手がまだ力を持っていることを確認する。
「うん」
「困ったら、仲間がいるよ」
ルルはなんだかうれしくなった。

ゼニーの力は、
一人だけに宿っているものではない。
流れの向こうにたくさんの人の信頼がある。
ルルはそれを理解して、なんだかうれしくなった。


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