ばあちゃん


サンザイングリーンのアズは、
祖母の経営する中華屋台にいた。
アズキばあちゃんと呼ばれるそのおばあさんは、
軽妙なジョークが好きで、腕のいい点心屋をしている。
アズのびっくりさせたり、笑わせたりが好きな性格は、
ひとえにアズキばあちゃんから受け継がれていることは疑いようもない。

「ばあちゃん」
「なんだい?」
「豚がチャイナを着たらどうだろう」
「肉まんが国民服着るようなもんだよ」
「豚にも豚権(とんけん)があるよ」
「点心屋には食材さ」
いって、アズキばあちゃんは、にかっと笑う。
かなわないなぁとアズは思う。
「アズ、なんだっけかね、シャンジャーイン?」
アズキばあちゃんは鍋をかき混ぜながらつぶやく。
「サンザイン?」
「それそれ、それはどうなったんだい?」
「悪者の親玉が、息を潜めている状態だよ」
アズキばあちゃんの眉間にしわ。
「そりゃよくないよ」
「でもさー」
アズは悪の親玉のガタリをしとめられない理由を並べようとして、
どれもこれも言い逃れっぽくて、いやだなと思った。
強い邪気のようだとか、居場所が今はわからないとか、
理由はどうあれ、悪者を放置しているのは、アズの性分に合わない。
「でも、なんだい?」
アズキばあちゃんは訊ねてくる。
「なんでもない、多分力不足なんだと思うよ」
「自分の、かい?」
「うん、力不足。心も力も、不足してる」
「認めるくらいには強くなったのさ、アズ」
アズキばあちゃんは鍋をかき混ぜる。

アズは屋台の椅子に座って、
心の強さとはなんだろうかと思う。
アズキばあちゃんは多分答えを持っている。
けれど、そこには自分でたどり着かないといけない。
考え抜かないといけない。
そして、考えたら、実行に移さないといけない。
アズは、辛くても笑えることが、笑わせることが強さだと思っていた。
今でも根本は変わっていないが、
そうあり続けることのしんどさは感じている。
笑わせることは、自分の力で笑わせることは、
アズの心の強さを問われているようで、
笑いで覆っているのに、心をさらしているような気がして不安になる。

アズキばあちゃんは飄然と点心を作っている。
「ばあちゃん」
「なんだい」
「サンザインになってみる?」
「冗談がうまくなったね」
アズは苦笑いする。
アズキばあちゃんは、やっぱりにかっと笑っている。
強さを持っていないと、こうは笑えないとアズは思った。


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