お屋敷の日々
シッソケンヤークは、原稿を書いていた。
彼の職業は、小説家に近い。
物語を書いたり、質素倹約のノウハウ本を書いたり。
地道にいろいろこつこつとするタイプである。
赤い前髪の向こう、視線は見えないが、
なんとなく困っているのがわかる。
経済の流れを変えるほどの質素倹約を作ってきた彼ではあるが、
締め切りにはかなわない。
どうにかしないとなぁとは思う。
分裂してできてしまった扶養家族とかあるし、
部下に支払う給料のこととかあるし、
彼らにこれ以上苦労はかけられないなぁと思う。
その気になれば動かせる金はあることはある。
けれど、そういうのはいざというとき。
まだそういうものを使うところではないと、シッソケンヤークは思う。
大食いのグリグリという青年を引き取って、
グリフォンはツッコミに追われている。
つい最近も、グリグリが拾ってきて壊れた電子ジャーから、
気持ち悪い虫がわらわら出てきて、
シッソケンヤークの屋敷中大騒ぎになった。
シッソケンヤークから分かれたネジなんかは、
気持ち悪い虫を興味深く見ているし、
壊れた電子ジャーを「デンジャー」とか名づけたり、
グリグリもそれを喜んだりして、
当事者の意識が皆無である。
分裂人格は、どうもふわふわしている。
シッソケンヤークは、窓から外を見る。
いい天気の中、ネジが日向ぼっこをしている。
あれでサンザインなんだから、世の中わからないものである。
あとで友人に引き合わせてみようと思う。
白黒つけるのがうまい友人だ。
ネジのいい話し相手になるといいと思う。
一通り原稿から逃避して、
「しょうがない」と、
シッソケンヤークは真っ白な画面に向かう。
このお屋敷の面々を書いても面白いなと思う。
赤い前髪が揺れる。
楽しき毎日ではある。
本物でないかもしれないけれど、
少し家族みたいだとは思う。
ふと、シッソケンヤークは思いついたことがある。
原稿用テキストのソフトを中断させ、
シッソケンヤーク用のソフトを立ち上げ、今度は高速で打ち込みだす。
「…うまくいけば、うまくいくか」
計算上は問題ないと出たそれは、
うそつき人形にされた、ヨシロクのデータ。
グリグリがだいぶ嘆いていたのを知っている身としては、
引き上げて、再生させてあげたいものだと思う。
小説書くよりは楽だ。
シッソケンヤークは、作業に取り掛かる。
どうしても小説に詰まったら、お屋敷の日々でもつづるさと、
シッソケンヤークの口元に、笑み。