静かな部屋で


ヘキは天井を仰ぐ。
ここはヘキの部屋。ムギが隣でカタログを見ている。
花嫁のドレスのカタログ。
早く着せてやりたいなぁと思う。
ヘキはクッションにごろんと転がり、
また、天井を仰ぐ。
全部ケリがついたら、派手に結婚式をするんだ。
そう思ってはいるけれど、
勢いですぐ結婚式を挙げてしまってもよかった。
そうも思っている。

ガタリは沈黙をしていると聞く。
バーをやっているサンダーのところに情報が届かないのだから、
表向きは沈黙しているのだろう。
胸糞悪い奴のことだ、
裏で何かを着々と進めている可能性は大いにある。
ならば何を準備すればいいだろうか。
サンザインのリーダーとして、
ムギの将来の夫として、
戦って生き残って、未来を勝ち取るためには、
何が必要だろうか。

「なぁ」
ヘキは天井を仰いだまま、声をかける。
いるのはムギだけ。
「なぁに?」
「何したらいいだろうな」
ヘキはぼんやりと問う。
ぼんやりとした問いに、ムギは考える。
「誰にも真似できないヒーローになればいいんじゃないかな」
「真似できない?」
「うん、サンザインのリーダーは俺だと言えたら、かっこいいよ」
ヘキは視線をムギに向ける。
ムギはカタログを置いて、微笑んでいる。
この微笑みを守りたいと思う。
みんなのヒーローとしては、ちょっと心構えが違うのだろうけど、
ヘキはムギの微笑みを守りたいと思う。
だから散財をするし、だからヒーローになるし、
だから、胸糞悪いガタリをぶっ飛ばしてやりたいと思う。
ガタリが今何をしているか、やっぱりわからないけれど、
あの時感じた邪さが間違いなければ、
あいつは何かしでかしてくる。
マネーだかなんだか知らないけれど、
どこからやつの尻尾をつかめばいいかわからないけれど、
それでも、と、ヘキは思う。
それでも、ムギの過ごすこの世界に、奴はいてはいけない、と。

「結婚式は派手にやろうな」
ヘキは約束する。
「みんな呼んで、パーッとやろうな」
ヘキがそんなことを言うと、ムギは困ったようにはにかんだ。
ヘキは笑って見せる。
「大丈夫。俺はサンザインのリーダーだ」
何が大丈夫か、ヘキ自身もわからないけれど、
大丈夫といわなければいけないような気がした。
ムギには不安を抱かせてはいけない。
幸せすぎて不安になるくらいでちょうどいい。
だから、大丈夫と、何があっても、サンザインは勝つのだと、
ヘキはムギと一緒に、自分に言い聞かせる。


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