心が走る


どれだけヒーローであればいいのだろう。
マイは少し悩んだ。
マジカル・マイとして、
どれだけの間ヒーローであり続けなければならないだろう。
テレビの中のヒーローのマイ。
マイは戦い、悪を倒し、いつも負けずに微笑んでいる。
何にも負けない架空のヒーローとしての、マジカル・マイ。
マイは架空のマイに時々心で負けそうになる。

それは大人の作った、理想のヒーローとしてのマジカル・マイに、
現実のマイが追いつかなくなってきているのかもしれない。
微笑んでいればよかっただけとは違う。
強く、やさしく、なおかつ笑顔であれ。
いつも、いつも、いついつまでも。
マイはヒーローであることに絶望に近いものを覚える。
いつまで戦えばいいのだろう。
それは、心まで常にヒーローであり続けなければならない、
そういった強迫観念に近いもの。
休みなく心が走り続けている感覚。
心は息を切らしている。
止まってはいけないと、走り続けろと、
どこからか声が聞こえる気がする。
マジカル・マイはみんなのヒーローだから、
心を止めてはいけないと、
心のどこかから声がする。

そんなある日のこと。
マジカル・マイの応募に当選したという、
ゲストの子役の少女と顔を合わせることとなった。
少女が来るまでの間、マイは台本を読み、少女の設定を頭に入れる。
彼女の役どころは黒猫の巫女という。
マジカルマイをサポートし、癒す役どころだという。
「…癒す?」
設定を見たマイは、思わずつぶやいた。
黒猫の巫女は、ネモさんという妖精とともに、
小さな星の力を使って、癒しや眠りをつかさどっている。
方向なく走り続けるものに、ひと時の安らぎを与え、
心を正しい方向に治す力がある。
…と、設定でなっている。
「これ…」
マイが必要だったのは、これではないかと。
安らぎ、眠り、そして、心が立ち止まるところ。
後ろを見てもいいし、そこで休んでもいいというところ。
小さな星の力。
マイがほしかったのは、これだ。

鼻の奥がつんとする。
泣いてはいけない、まだ、ヒーローだから。
でも、みんなわかってたのかなと思う。
マイだけが走っていたのかなと思う。
休息が必要だということを、みんなわかっていたのかなと思う。
みんなに支えられてマイはヒーローになっている。
マイだけがヒーローなわけじゃない。
おもちゃをうれしそうに振り回す子供達にだって、
応援してくれる人にだって、
マイは支えられているし、その人たちもみんなヒーローだ。

ヒーローをいつまでやるかはわからない。
でも、ヒーローをお休みして、好きな音楽を存分に聞きたいなと。
マイは思い、今はがんばれそうな気が、ちょっとだけした。


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