召喚師と妖精


ハルミ少年は、雪の妖精を見ている。
妖精はアイスクリームをおいしそうに食べている。
本当は、召喚した精霊や悪魔には、
専用のエネルギー源が必要になるのだが、
アイスクリームはおやつのようなもの。
これは気分の問題だ。
「ハルミは食べないほ?」
雪の妖精は、ちょっと心配そうにハルミを見る。
「全部食べちゃっていいよ」
「お腹痛いほ?」
「いたくないよ。心配しなくていいよ」
ハルミはそっと雪の妖精をなでる。
妖精は、にっこり微笑む。

ハルミは、ヨーマ少年にスカウトされ、
シッソケンヤーク側で召喚師として戦ったこともあった。
サンザイン。そのときに戦った連中の名前。
なんかいろいろあったらしいけれど、
正義のヒーローだったらしい。今でもそうなのだろうか。
ハルミは一応悪役だったというわけだが、
悪魔を召喚するのが、善というわけでもないなと。
でも、この雪の妖精まで悪になったらそれはそれで嫌だなと思う。
召喚師はちょっと悪役よりのほうがいいかもしれない。
悪役ともちょっと違うかな、ダークヒーローよりというか、
とにかくちょっと悪かっこいいのがハルミの目指すところでもある。
そこにちょこんと、この雪の妖精がいれば、何もいうことはない。

サンザインとの戦いが、終わってから、
ハルミはシッソケンヤークから、暮らしに困らない程度の金をもらった。
その上で言われたことが少し気にかかっている。
「今度は正義になるかもしれない」
ハルミはつぶやく。
シッソケンヤークがつぶやいたそれを。
雪の妖精は、それを聞いて、きょとんとする。
「ハルミ?」
「うん?なに?」
「今度は正義?」
「よくわかんない、けど、正義のほうがいいかな」
「ハルミは正義の味方でもやれるほ」
ハルミは困った顔をする。
どうも、この雪の妖精は、
ハルミが悪役についていたことが、わかっているらしい。
「悪魔の情報網だほ」
雪の妖精はそういって、えっへんと咳払い。
「ハルミが何をしていたか、ちょっとはわかってるほ」
「だったら…」
ハルミは何か言いかける。
その前に雪の妖精は言う。
「悪魔は召喚師の意志で動くほ」
言ってから雪の妖精はハルミを見上げて続ける。
「でも、ハルミはマスターで友達だほ。言うことはないほ」
「友達」
「うん、だから、正義でも悪でも、好きなことをハルミはやっていいほ」
いいんだ、と、ハルミは思う。
この雪の妖精は、それでいいといってくれている。
小さな妖精の言葉が、今はとてもありがたい。

神様もいるかもしれない。
邪悪の化身もいるかもしれない。
それでもハルミは、己の心のままに動こうと思った。
かっこいいのはそういうことかもしれない。


次へ

前へ

インデックスへ戻る