太陽を見に


ラクは空飛ぶバイクの調整をしている。
楽工房、ラクの空飛ぶマシンの店で、
ラクはかなり集中して、作業をしている。
一度作業に没頭すると、よほどのことがないとラクは気がつかない。
だから、ラクの店に来たその男の気配に、
ラクはぜんぜん気がつかなかった。
延々没頭して、ひとまず形になったというところで、
ラクは満足げにため息を一つ。
そのラクの後ろで、
「一時間半」
という声がかかった。
当然そんな気配を知らないラクは驚く。
振り返ると、ヘキが工房のドラム缶のそばにいる。
「新記録だな、俺に気がつかない時間の」
「…いたんですか、団長」
「いた、一時間半」
「退屈だったでしょう」
「まぁな」
ヘキは屈託なく笑う。
「今までは、いくらなんでも一時間越えはなかったな」
「声をかければいいじゃないですか」
「かけた。何度か」
ラクは苦笑いするしかない。
それほど没頭していたらしい。

「夜明けを、見ようと思ってまして」
ラクはぽつりと言う。
「夜明け?」
ヘキは聞き返す。
「何の障害もない空から、夜が明けるのをみたいなと」
「そりゃまたどうしてだ?」
「奇跡をみる気分になるんです」
「奇跡、かぁ」
「太陽が何度も昇ることって、奇跡かなと、まぁ、思いまして」
「雰囲気はわからんでもないけどな」
ヘキは天井を見る。
考え込んで、感覚をつかもうとしている。

奇跡はめったに起こらないけれど、
何度だって起きる可能性がある。
太陽のように、何度だって昇る。
ラクはそれを信じたい。
サンザインは最後には必ず勝つと、
カリスマのリーダーは、明るい未来を連れてきてくれると。
太陽が昇るような、当たり前の奇跡を起こしてくれると。
ガタリなんていう悪がいるらしいけれど、
サンザインはきっと吹き飛ばしてくれるはず。
そういう奇跡を、ラクは信じたい。

「飛びますか?今夜」
「いいな」
ヘキは笑う。
微塵もラクの腕を疑っていない。

一番身近な奇跡。
大きな奇跡。
ここにカリスマのリーダーがいることが奇跡。
ラクが、ヘキが、仲間達が生きていることが奇跡。
海から昇る太陽を見に行こう。
ラクの空飛ぶバイクに乗って。
エンジンの音がうなる空で、
言葉を尽くしても表現できない、
当たり前の奇跡を見に行こう。

一時間半も待ってくれたカリスマのリーダーに、
ラクは最高のフライトを準備しようとする。
最高の空を。光で満たされるであろうその瞬間を贈りたいと思った。


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