理想郷


マナトは花の手入れをする。
ここはマナトの庭園。
ゆっくりとした時間の流れる、美しい庭園だ。
マナトは自らこの庭園の手入れをし、
傍から見れば優雅な時間をすごしている。

サンザインゴールドとして、
サンザインのピンチに現れたことが、
物語になっていないけれど、あった。
まぶしいゴールドのサンザインは、駆け抜ける光のように、
悪者をやっつけて、勝利をもたらした。
マナトは思い出して一人微笑む。
やっつけるというのは、それなりに爽快かもしれない。
正義が自分にあると信じるのならば。

花をそっと手にとり、はさみで枝を少し切り落とす。
マナトはふと、考える。
悪がいることでしか正義を言えないって、
それはかなり未熟なんではなかろうか。
シッソケンヤークは、ゼニーの流れを止めていたかもしれない。
サンザインはゼニーの流れを取り戻そうとしていたかもしれない。
そして、ヨシロク経由で召喚されたと思われる、
ガタリというやつ。
ガタリがいるからサンザインが正義と思うのは、
マナトとしてはしっくり来ない。
もっと、なんだろう、花が咲くように自然な正義がないものか。
悪がいなくても美しく、
悪がいなくても凛とあり続ける。
そういう正義をマナトは求める。

「怪人をぼこぼこにするのは楽しかったけどね」
マナトは一人つぶやく。
あの爽快感は忘れられるものじゃない。
閉じ込められていた鬱憤を、思いっきり発散させたものだった。
未熟だけどもサンザインが正義だったからできた。
それには感謝している。

マナトは、庭を見渡して思う。
ここには正義も悪も対立していなくて、
あるべきところにあったらいい、マナトの理想が詰まっている。
世界がそうなれとは思わない。
みんながいるべき場所にいたらいいなと思うことは、ちょっとあるけれど、
そうならないことは、マナトもよくわかっている。
花が咲くような理想。
マナトの庭の理想郷。
一方的な力もなく、苦しみもなく、怒りもなく。
マナトの心がこうあったらいいという空間。
マナトはそれでだいぶ満たされている。

空は綺麗に青く。
青さはマナトに噂を思い出させた。
百の顔を持つ悪魔のコイン。
また戦うのだろうか。今度は何と戦うのだろうか。
正義はこちらにあるのだろうか。
戦えば何かが変わるのだろうか。
マナトは少しだけ悩んで、それから、握りこぶしを作ってみる。
マナトの時間を、悩みに持っていかれるのは好きでない。
だから、また、ぼこぼこに吹っ飛ばして二度とくるなと。
言えたらいいな、と、花の前でマナトはちょっとだけ物騒なことを思った。


次へ

前へ

インデックスへ戻る