迷子の人と
ハルカは町を歩く。
時たま住人とすれ違い、軽く挨拶。
この町の住人がおせっかいだと、言っていたのはアニメ部の部長だったか。
自分だって首突っ込むじゃないかとハルカは思う。
それはともかく、この町の住人が優しすぎるのは、
ハルカも認めるところである。
それはいいことでもあり、おせっかいすぎるとも、うつるかもしれない。
まぁいいんじゃないかなとハルカは思う。
居心地いい場所は、あって悪いことじゃないと思う。
ハルカは店に戻るか、サンダーのバーに行こうか考える。
誰かとちょっと話したい気分だ。
気分のままに歩くのも悪くない。
路地をぐるりと歩き、
頭の中に地図があり、身体が覚えている町を気ままに歩く。
人影を見つけ、ハルカはおやと思う。
あんまり見ない人だなと。
見ない人だけど溶け込んでいて、
そのくせ迷っているようだ。
不思議な人だなと思う。
この町の住人の空気なのに、迷子になっている感じがする。
その人はぐるりと辺りを見回して、
ハルカを見つけた。
「ああ、この町の人ですか?」
困ったその人が声をかけてきた。
「はい」
と、ハルカは正直に答える。
「サンダーさんのバーを知っていますか?迷子になっちゃって…」
「ええ、知っています。一緒に行きましょうか」
「助かります、ありがとうございます」
その人はお辞儀をして、
「もしよろしければ、お名前を教えていただけませんか?」
「ハルカといいます。眼鏡職人師範代…というような身分です」
「なるほど、先生なのですね。私はチン。名前以外には何も」
「チンさん、ですか。はじめは誰も何も持っていないものです」
「そういうものでしょうか」
「そういうものです。作り出すことができたら、初めてそれが持ち物になるのです」
「いいですね、それは」
チンは笑う。
ふむふむと考えて、
「実にいい、なんかいい。自分のものを作り出すって、いい」
「物つくりをされたことは?」
「いや、いろいろ忘れているのか、もともとないのか…」
「作ることは、楽しいですよ」
「うん、やってみたいですね」
チンは何かを見つけたような目をしているなと、
ハルカはなんとなく思う。
「それじゃ、サンダーさんのバーに行きますか。こっちです」
「はいはい」
ハルカは歩き出す。
この町の空気をまとって、チンも歩き出す。
チンの目が宝物でも見つけたようだと、
ハルカはそんなことを思った。
創作、創造、その楽しさを伝えられたらいいなと、ハルカは思う。