流れを止めろ


グリフォンはシッソケンヤークのお屋敷にいる。
攻めてくるものもなく、戦う正義のヒーローもなく、
おおむね平和な日々が続いている。
機械の身体にグリフォンの意識を入れられ、
なじむまでに時間がかかったが、
それでも大体適応してしまうものだ。
「人間ってそういうものかもなぁ」
グリフォンはぼんやり思う。
このままこのお屋敷の中だけでも平和が続けばいいかなと思う。

話があったのは、そんな平和な日々のある日のこと。
「経済の流れに、妙なコインが乗っているという」
シッソケンヤークが、そんな話をした。
「コピーコインですか?」
ヨーマはわかっているようだ。
グリフォンも噂だけなら聞いたことがある。
悪意のコイン。青いコイン。
百の顔を持つ悪魔のコイン。
百の顔を持つジンというやつとは関係あるのだろうか。
会ったことはないけど、縁屋が紹介してくれた。
敵か味方かわからないけれど、と、グリフォンが言おうとしたところに、
「また、経済の流れを止めないといけないかな」
と、シッソケンヤークがつぶやく。
少しだけさびしそうに。
「よくないものが流れているならば、止めないといけないでしょうけど」
ヨーマはそこで言葉を区切り、
「いいんですか?」
と、問いかける。
シッソケンヤークは、口元を笑みにする。
表情はほとんど前髪で隠れていてわからない。
「悪になるのは慣れているよ」
シッソケンヤークは嘯く。
グリフォンにも、嘘だとわかる嘘。
シッソケンヤークは平和を愛していた。
穏やかな、ちょっといびつな日々を愛していた。
グリフォンにだってそのくらいわかる。

「どうする?悪の帝王が復活するが」
シッソケンヤークは、グリフォンと、ヨーマに問う。
「君達がまた悪役になるかどうかは、任せる」
シッソケンヤークはそういうと、部屋に戻っていった。
グリフォンは途方にくれる。
自分達部下も切り離してまで、悪役になろうというのか。
経済の流れというのはそんなにも危険な状態になっているのか。
一人で、彼一人でできる力があることはわかっているけれど、
シッソケンヤークがグリフォンたちを、安全圏に置こうとしているのが、
つらいし、悔しいし、疑問だし、泣きたい。

その夜、シッソケンヤークはそっとお屋敷をあとにした。
ついてくる影が何人か。
シッソケンヤークは苦笑いする。
「ヒーローになる機会をなくしたな」
ついてくる影は何も言わない。

それから。
経済の流れは停滞する。
悪の帝王シッソケンヤークの力のもとに。


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