正義はどこだ
ビブは、アパートの屋上にいる。
身体の調子は快方に向かっていて、
その所為か、屋上を吹く風が心地いい。
とある縁で始めた太極拳と、
少しばかりの散歩。
すべてが不健康から健康に置き換わったわけじゃない。
それでも、だいぶ調子はよくなったとビブは思う。
屋上で、風の流れのように太極拳を練る。
何かの流れを作っているようで、
それは見えないものではあるけれど、
身体がそういう方向に動く理由が、ちゃんとあるような気がして、
そう思ったということを、あとで聞いてみてもいいかとビブは思う。
ビブの師の名は、リュウジといい、
一の質問に十の深みを増して語る、そんな師匠だ。
息を長くはいて、一区切り。
無理をしない程度に。
少し何かができるというのは、
何かができると気がつくのは、いいものだとビブは思う。
上達したとビブ自身が感じるのも、
師にほめられるのも、
いいものだとビブは思う。
ビブはちょっとだけかいた汗を拭き、
じっと空を、町を、見る。
友人のワガが伝えてくれたところでは、
経済の流れが停滞しているという話だ。
ゼニーとか何とかいっていた気がする。
それで町は、運動不足がひどくなった龍のように、
なんとなく、臥しているように見えるのだろうか。
ビブの目から見ると、なんとなく、めぐりが悪い病気に見えないこともない。
ちょっと前にビブの元にやってきた、
ワガは、正義はどこにあるのかを悩んでいるようだった。
ワガの手に正義がないとは、思わない。
みんなを癒している、ワガが正義でないというのは考えにくい。
ただ、正義でないものが全部悪ではないし、
正義でないものは、別の正義かもしれないと思う。
正しいということが、わかりにくいなと思う。
みんな正しいと思ってやっていることが、
見当違いの方向にいっているかもしれない。
人の数ほど哲学はある。
ビブにもそれなりの哲学はある。
強く信じるそれが、その人にとっての正義であり、
正義は強くないといけないと、ビブは思う。
強く願ったものが、鮮烈に残って欲しい。
それが誰かの正義であって欲しい。
歴史に正義として残るのは、強い強い、生半可なそれじゃない強さ。
この町にその強さはあるだろうか。
誰かの歴史に残るような、強い正義。
強い正義はどこだ。
思ってビブは微笑む。
「どこにだって結構ありそうですね」
正義はどこにでもある。
多分、どこにでも。