貨幣の鬼律


ダガシは鬼律(グイリー)という異形を退治している。
いわゆるこの町のモンスター。
多少の説明を加えるならば、
打ち捨てられた物に、邪気が宿って動き出した、物の怪。
鬼律を観察し、図鑑にし、
そして、ちゃんと始末する。
鬼律は見かけは生物のような道具のようなもので、
グロテスクでもあるし、ユーモラスでもある。
しかし、近づけば邪気を発していて、
邪気に当てられたものは思考が停止して、
ひどい妄想に取り付かれるようになる。
だから、鬼律退治は一種の掃除だ。
それは超級風水師の、仕事である。
ダガシはそれに誇りを持っていて、
師であるギエンがそうであるように、ダガシは町の鬼律を退治する。

気力を強く持たないと、邪気に飲み込まれるこの仕事。
今も一体始末して、ため息。
属性が偏っているなと、ダガシは感じる。
あるいは、気脈のよどみのようなもの。
鬼律の元となる、打ち捨てられたものが増えたわけではない。
増えたのは、よどみだとダガシは解釈する。
何かが滞っていると、思う。
閉じ込められた水が悪くなるように、
悪くなった水に虫がわくように、
鬼律が喜ぶ空気が出来上がっていると、ダガシは解釈する。

鬼律をいくら掃除しても、
根本がよどんでいてしまっていては、きりがない。
何か、大きなところに原因がある。
ダガシ一人で解決できるわけでないかもしれない、
何か、この町を飲み込むような、
異様に大きなもの。
そして、邪なもの。

ダガシは走り出す。邪気の気配を感じて。
最近多い、金属性の予感。
鬼律玉という、鬼律撃退の玉を準備する。
この距離から感じるのであれば、
かなりひどい邪気だ。
ダガシは覚悟する。

路地裏に、青いコインの鬼律。
自分で自分の模倣をして増えている。
ぞろぞろと。
「こういうのは、本体をやるのがセオリー、だな」
本体を見定めるのは、鬼律退治をしている超級風水師ならできる。
感覚を研ぎ澄まし、邪気にも負けない気力を強く。
(みえた)
違和感を感じたコインに、ダガシは鬼律玉を投げつける。

悲鳴のような、嘆きのような、鬼律の音、声。
邪気が掃除されたそこには、ひしゃげた青いコイン。
そのコインが、邪気を失って、意味のないコインに成り果てたのを、
ダガシは感じ取る。
ダガシは今までにも何体か、この青いコインの鬼律を退治している。
この町の鬼律とは、ちょっと違う類のものだ。

「どうにかならないものかな」
ダガシはふぅとため息。そして、走り出す。
できることは、目の前の仕事をこなすこと。それだけだとダガシは思う。


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