正体不明


異形職人のトマトは、とある店に来ていた。
明石家というその店は、店主が百の顔を持つという。
他の町では噂と片付けられるが、
この町では本当に百の顔を持っているかもしれない。
どんな風なものだろうとトマトは想像する。
葡萄のように百の顔を想像して、それなら面白いなぁと思う。

明石家の前には、女性が一人。
「ほんとに知らないの?」
店の中に向けて声をかけているようだ。
「知らないよ。大体百の顔を持つってどうして僕になるんだよ」
何ともつかない、一応、声らしいものが言葉の意味を持って答える。
「他にいないでしょ、くるくる化けるの」
「そうだけどさぁ、何で噂のコインが僕のになるんだよ」
声の感じが変わる。
女性が言うところの、化けたのだろうか。
「とにかく僕は関係ないからね。へんなコインは関係ないっ」
店の中の声は言い切り、
女性は肩をすくめた。

トマトは、ちょっと関わってみようかと思う。
葡萄みたいな百の顔でないにしろ、
くるくる化ける人というのは興味がある。
トマトは近づいていって、まずは女性に挨拶。
トマトと名乗り、女性はケロと名乗る。
ケロは縁を作っているらしい。
円という通貨ではないらしいが、
通貨を作っていたらそれはそれで大変だとトマトはとぼける。
ケロは笑い、店の中の声に同意を求めた。
「縁は円より強し。なんちゃって」
と、店の中でアキバ系青年がとぼける。
青年はジンと名乗り、煙のように人形じみた姿になる。
NHK教育?と、トマトは記憶の曖昧な人形を見る。
「これで僕がジンとはわかるまい!」
「今、名乗ったじゃない」
「しまった!」
ケロの反応の速さを見るに、お約束なのだろう。

「ところで、噂の変なコインとは?」
トマトは問う。
「百の顔を持つ、なんにでも化けるコイン。悪意の塊」
ケロが簡単に説明する。
「で、百の顔って言ったらジンくんだから、ちょっととっちめようと…」
「ぼうりょくはんたーい!」
ジンが高らかに抗議する。
「まぁ、違うみたいだけどね」
ケロは肩をすくめる。

トマトは考える。
なんにでも化けられるコインというものは、
まず何もないところから作るのは難しい。
プログラムが、何かに変身すると言うものを元にして、コピーしているのなら、
トマトの中では合点がいく。
トマトはどうにも最近の流れがうまくつかめていないので、
それ以上の推測はできない。

悪意の塊。
百の顔を持つコイン。
気にはなるけれど、トマトにはわからないことが多すぎた。


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