命の通貨
青い青い空の下。
カチは未開の地で戦っていた。
カチはとある部族の女酋長で、
部族同士の意地とプライドをかけた戦いに、
酋長自ら戦いを買って出た。
命を賭けることが好きなのではない。
ただ、生きたいのだ。
生きるために戦い、守るために戦う。
単純でいいのだ。
無駄遣いをしてもしてもし足りなかった、
セレブの頃のカチの生活からは、
考えられない日々。
これでいいとカチは思う。
セレブの生活を過去のものにして、
たまに懐かしく思うことはある。
けれど、生きる場所はこことカチは決めた。
命の通貨でカチは戦う。
たった一つの通貨。
これだけ通じればそれでいい。
空の下で勝敗が決する。
相手を倒し、カチが勝利する。
未開の地には、情報はほとんど入ってこない。
ふるさとだった地は、今どうなっているだろうか。
あの町は。
ごみごみして、無駄ばかりで、住民はおせっかいで。
思い出して、カチは笑みを浮かべる。
今は別の世界で暮らしているけれど、
彼らは彼らで守りたいものがあった。
ムダヅカイン・チャンも、
無駄遣いして何か守りたいものがあったのだろう。
それは、カチの感じる命の通貨かもしれない。
今のカチのように無駄なく激しく直接的には、
チャンは無理だったのかもしれない。
だから、金で無駄遣いをしていたのかなと。
命を守るのは、力だけでない。
金は複雑な流れを描くけれど、
信じれば腕の力以上に力を発揮する。
それがゼニーだとか何とか言ってたっけ。
カチは微笑む。
(ややこしいことに縛られてないか、チャン)
遠い遠い空の下。
カチは思いをはせる。
(最後は金じゃなくて、腕の力でもなくて)
(それ以上の何かで戦うんだ。わかるか、チャン)
空は高く青く。
カチは自分が小さな存在であると感じる。
同時に、部族の酋長であるカチは大きな存在でもあり、
そこをちゃんと感じ取っていかないといけない。
命の大きさは、小さくも大きくもある。
すべてが対等なわけではないけれど、
この命でカチは無駄遣い以上のことを得た。
正義も悪もすっぽり抜けたこの未開の地で、
カチは勝利の雄たけびを上げる。
正義がどこにあるかとカチに問われたら、
カチはきっとこう答えるに違いない。
(命に聞け)
きっとそれがカチなりの答えだ。
美しいカチは今日も戦っている。
ここは未開の地、無駄な通貨のない場所。