生産の賢者


町は混乱状態になる。
うじゃうじゃわいて出る、マネーの力から生み出される、
物真似して何も考えない青いサンザイン。
その量産型サンザインと戦う者、
一時的に避難する者。
そんな中、ハルカはぎりぎりまで砂場において、チンと物つくりをしていたが、
いよいよよくない状態になり、
チンと一緒に店に引っ込んでいる。
外で戦う音がして、悲鳴も上げない量産型サンザインが、
倒されてはどこかから、湧いて出ている。
ハルカの店の入り口は、一応閉ざされているが、
他の避難している者の不安はいかばかりだろう。
頼れるものが誰もいない可能性だってあるのだ。
量産型サンザインは、物真似しかしない。
だから、何かを破壊する方向に動いたときが怖い。

「ハルカ先生」
チンは、ポツリとつぶやく。
「外に出ていいかな」
ハルカはその意味を一瞬理解できない。
「だめです、今は危険です」
ハルカは常識的に言ったつもりだが、
チンは何事か考え、また、
「僕が外に出なくちゃいけないんだと思う」
と、ハルカにとっては非常識なことを言う。

外で戦いの音がする。

「ハルカ先生」
チンはまた、つぶやく。
「物を作ること、生み出すこと。教えてくれてありがとう」
「そんな」
そんなお別れみたいな、と、ハルカは言おうとする。
言ったら本当にお別れになりそうだと、どこかが予感している。
「何も考えず流されるだけではいけない。作り出さなければいけない」
チンは何かをわかったように。
「物真似で考えを放棄しているのには、そういう力が覿面なんだ」
チンは自分で言ったことにうなずき、
「そう、物を作る力で、やつらを一掃できる」
チンの目に光。
何かを悟ったような、光。

「僕は行かなくちゃ。セイサンの…生産の賢者として」
「生産の賢者…?」
ハルカの問いにチンはうなずき、
「ハルカ先生が物つくりを教えてくれたから、僕は生産の賢者になれた」
ハルカは言葉を選ぶ。
チンは戦いの場に行くべく、扉を開けようとする。
扉一枚向こうには、量産型サンザインが亡霊のようにいるはず。
ハルカは、言葉を決めた。
「この町の物つくりの力、とくと味あわせてあげなさい」
ハルカの言葉に、チンは一度振り向くと、うれしそうにうなずき、
扉を開けて戦いの場に身を投じた。

賢者の覚醒したばかりの力が、
青いサンザインをなぎ払っていく。
チンは無我夢中で駆ける。
ゼニーの本来の力が、この町を駆け巡る。


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