戦いは終わった。
満身創痍の皆の心から、不安が消えていくのがわかる。
終わったのだ。
何もかもが。

ガタリの大きな顔の消えたそこに、
光が差し込んでくる。
新しい太陽。
太陽が昇るように、奇跡は起きる。

まだはしゃぐほど回復も状況把握もできていない彼ら。
彼らもじきに、すごいことが起きたんだと気がつくだろう。

その近くの路地裏に、リュウジはいた。
「で、この意識があんたの最後か」
リュウジの前に、黒い意識体。
「わかるだろ?物語ってのは終わらせなくちゃいけないんだ」
『しかし』
「終わらせたくないのか?」
『そうでなければ消滅させてくれ…惨めだ』
「そうすることもねぇだろうよ」
『しかし』
リュウジはにやりと笑う。
「あんたは、クーロンのガタリのコピーに過ぎない。何の力もない悪意だ」
『……そうかもしれない』
「あんたの物語が、ここで終わることもできるし、これから始めることもできる」
『これから、だと?』
「俺はこれから、終わりの向こうを見る旅に出る。一緒にいかないか?」

沈黙。
ヒーロー達が遠くで歓声を上げだしたのが聞こえる。
ようやくわかってきたか。

『私は、悪意だ』
「俺だって悪意の十や二十ある。悪いが、あんたより強いと思うぜ」
『うるさい』
「まぁ、どうだい、俺の語りについてこれるか?」
『私の物語は始まれるのだろうか』
「始まりと思えば、いつだってそうさ」
『私は…私の物語が欲しかった』
「欲しければ作ればいいのさ。ここの連中みたいにな」
意識体は少し考える。
そして、
『行こう、リュウジ。終わりの向こうに』
「話は決まったな、行くか」
リュウジは意識体をともに歩き出す。

歓声は大きくなり、
喜びの輪が広がっていく。
でもそこにリュウジはいない。
彼は旅に出た。誰にも何も言わずに。
ビブがリュウジを探していたが、
結局見つけ出すことはできなかった。

今は、ヒーロー達は気がつかない。
ただ、悪を倒せたんだと。
それだけで、ヒーロー達は十分すぎるほど十分だった。
これで全部終わりになったんだと。
それだけで。

いつかどこかの空の下、
悪意と共に旅をしているリュウジがいる。
終わりの向こうの物語を知っている、
彼らがどこかにいるはずだ。
会いにいくのは、もうちょっとあとでいいかもしれない。


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