輝く爪
ネイル職人のチマは、つけ爪を作っていた。
爪も着替えることができる。
それこそ爪先から、きれいになりたいというのは、
きれいになりたい欲求として自然なものだとチマは思う。
売り物の爪の形に、美しい模様を施す。
細かい作業ではある。
それでも、この小さな爪の輝きが、
わかってくれる人がいればそれでいいとチマは思う。
小さなことに気がつくこと。
それは多分偶然も重なるけれど、
粗探しでなければ、小さなことに気がつくのも悪くない。
爪を着替えたとか、髪飾りを変えたとか、ピアスをしてみたとか、
きれいになりたい人は、小さなことにも気がついて欲しい。
それは、そこまで手が行き届いていますということ。
遊び心でもあるし、隙のなさでもある。
チマはそういった人のために着替える爪を作る。
いつか、こんなに素敵な爪を見つけたの、と、誰かが言っていたら、
そんなことがあったら、チマとしてはうれしいと思う。
爪の輝き具合を確かめ、
チマはうなずく。
いい輝きが得られた気がする。
箱におさめ、店に置きに行く。
チマは露店街の露店をひとつ借りていて、
そこに商品になった爪を置いている。
盗難とかの心配はない世界であるが、
露店街はそれなりににぎやかである。
チマは箱を置き、おやと思う。
一応他の人が置けないチマの露店に、何かチマの知らないもの。
小さなそれを摘み上げると、
それはどうやらコインのようだ。
爪よりは少し大きくはあるけれど、
こんなものが何でと思う。
通貨ではないようだ。
ならばお守りか何かだろうか。
露店街の管理人が、商売繁盛にとくれたのだろうか。
ならばみんなのところにあるはずだけど、
ぱっと見、見当たらない。
特別に?
いや、考え方を変えよう。
でも、悪いものとは思いにくい。
これを手にしたことで、いきなり借金を背負うとかは考えにくい。
チマはコインをもてあそび、
誰かの作りかけが転がってきたのかなという結論をつける。
この町の誰かだろうし、
作りかけならば、まぁ、お守りという意味を与えればいい。
チマの爪が、コインをつつく。
こつこつ、きらめく爪が、謎のコインに問いかける。
あなたはなぁに?
コインは黙っている。
チマは微笑み、コインをしまった。