木枯らしのカメラ小僧


ワンレンはクーロンの様子をカメラに収めていた。
ワンレンはいわゆる撮影が好きなもの。
カメラ小僧というものに近い。
かわりゆくクーロン。
それは生き物のように。
カメラを向けるのは、記念という意味とはちょっと違う。
記念もあるかもしれないけれど、
何よりこの瞬間を撮っておきたい。
切り取っておきたい衝動というのが一番近いかもしれない。

クーロン自体に季節はない。
ただ、住民が季節を忘れていない。
だとすれば、クーロンは住民がいることによって、
時を刻んでいるのではないか。
ワンレンはクーロンを写しながら、そんなことを思う。
住民とクーロンの不思議な関係。
瞬間瞬間が鈍く光る輝石のように。
それに魅入られたからここにいるのかもしれない。
美しいものは山ほどこの世界にあるかもしれないけれど、
クーロンの美しさはここでしか見ることができない。
ここでしか撮れない。

ワンレンの足元で、猫が鳴いた。
黒い猫だ。
ワンレンの猫である。
クーロンの名物猫として、かわいがられている黒猫だ。
にゃあとなく黒猫に、カメラを向ける。
慣れているのか、黒猫はじっとしている。
戯れにぱちりと一枚。
くすくすとワンレンは笑う。
猫はわかっているのかいないのか、足元でじゃれる。

風が吹く、クーロンの風。
ワンレンはカメラを覗き込むけれど、
風をそのままとらえることはできない。
どうしたものかな、
風には何か輪郭が必要かもしれない。
木枯らしが枯葉を舞い躍らせるように。
ワンレンはしばし考え、
「木枯らしの輪郭を作ってみようか」
と、つぶやく。

形なき物に輪郭。
ある種、野暮なことかもしれないけれど、
クーロンを吹きぬける風を、
ワンレンは表現してみたいなと思った。
それは衝動。
物を作りたいという、衝動。

ちりん。
何かの音。
黒猫が前足で何かを転がしている。
ワンレンはしゃがみこんで、それを手に取る。
「コイン?」
「にゃあ?」
猫も疑問符。
ワンレンは猫の頭をなでると。
コインをなんとなくしまい、
作業場へと向かっていった。

クーロンを吹きぬける風。
カメラにも撮れないそれを、作り出す人がいる。


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