あなたのヒゲ私のヒゲ
クーロンの町に奇妙な店がある。
通称・ヒゲ抜き屋。
ナナキという人物が営業している、
ヒゲのかつら屋みたいなものだ。
ヒゲを抜いてかつらにするのだろうか。
真偽のほどは大体において謎である。
とりあえず、痛そうではある。
清潔な店内。
ヒゲかつらのサンプルの並んでいる中を、
自動ほうきが掃除をしている。
落ちているヒゲなんてない。
魔法にかけられたようなほうきが、
人がいればよけながら掃除を、
いなければ縦横無尽に掃除をしている。
ナナキの姿は、噂ではプリンだという。
大きなプリンが店のヒゲ看板を、
入れ替えているのを見たという人もいるらしい。
らしいらしいで確実性に乏しいが、
クーロンという町に魅せられた者のなかには、
おかしな格好をするものもいる。
みんながみんなそういうわけでないが、
ある程度おかしくないとクーロンでないかもしれないと思ってみたり、
あるいは、クーロン住人というもののロールプレイを楽しんでいる節もある。
プリンなんていうのは、少々ファンシーであるが、
おかしな格好をしている町では、溶け込んでいるほうなのかもしれない。
ヒゲを抜くプリン。
クーロンに店を構えたおかしな住人。
この世界のクーロンの町は、どこに進んでいくのか。
手探りという言葉がしっくり来る中に、
速球ストレートを投じたようなヒゲ抜き屋。
クーロンという汚れた町に、
清潔な店内と、無数のヒゲのかつら。
ヒゲ抜き屋の前を、
プリンが通り過ぎていく。
彼、あるいは、彼女?
それは野暮というものかもしれない。
プリンはプリンで、ナナキかもしれないし違うかもしれない。
彼でも彼女でもいいのだ。
この町の感覚にあっていればそれでいいし、
クーロンの町はそれこそ貪欲に何でも飲み込まんとしている。
たいていのことはクーロンの町は受け入れる。
プリンが町を徘徊するのなんて、
些細なことなのかもしれない。
なんでもありうる。
手探りということは、逆をいえばなんでもありうるのだと、
汚れた町を歩くプリンが示している。
不思議だけでなく、汚れだけでなく、突飛さだけでもなく。
この町に溶け込むこと。
多分ナナキのプリンは、そのことをきちんと理解している。