持ち物の重み


カクザは拾ったコインをもてあそびながら、
どこかの町のラッキーボードの前にいる。
脅威の幸運で拾ったことを、
カクザ自身わかっていないし、
わかっているのは多分、
クーロンの町というものに意識があるならそれだけなのだろう。

カクザは思う。
ちゃくちゃく増えつつある持ち物は、
この世界では重みが少ないかもしれないけれど、
確実に持ち物の重みが増えるとするならば、
それは、作り主の情熱と、それを手にすることによる、
一種の責任のようなもの。
作り手の情熱が、どんな物にもある。
時間という代価を払って、ラッキーボードで物を手に入れたり、
散財して、良い物を手に入れたりする。
それはその情熱に対する対価であり、
あなたの情熱を感じます、その情熱を信じますという、
そういう信頼につながるのではないかと、カクザは思う。
ラッキーボードがカクザのイニシャルを示し、
カクザはアイテムを手に入れる。
持ち物が、また、増える。
カクザはいつものように、どこかの町から帰路に着く。

カクザの借りているアパートの前。
不意に。
「本当にそれが必要なのかい?」
カクザの後ろで声がかかる。
「ただ手に入れるだけならば、いらないだろ?」
カクザは振り返った。
誰もいない。
それでもカクザの後ろから声がかかる。
「俺はイレイズ。気まぐれに重い持ち物を消してやるのさ」
カクザは、怒りを感じる。
せっかく手に入れたものを消してしまおうなんて、
この世界に、よくあるのかはわからないけれど、
そんなの許せない、と、強く思った。

「俺はこの世界の影。物の情熱の裏側」
イレイズと名乗った、声は言う。
「なぁ、少しくらい消えたほうが、重くなくていいんじゃないか?」
カクザは声に反論しようとする。
ぎゅっと拾ったコインを握りしめ、
「作る情熱を受け止めるのも、受け止める側の役目です」
と、答える。

カクザは静かに怒る。
コインを握り、静かに。
殴りたいとも傷つけたいとも違う、怒り。
持ち物を勝手に消して回るなんて、
それはとても許せないことだ。
そのとき、握る手から伝わる、感覚。
(怒りに我を忘れないならば、言葉を教えよう)
「言葉?」
(散財と唱えよ。それは力になるはずだ)
理由はわからないけれど、
それはコインから伝わる言葉に思われた。

「邪魔がいるな。まぁいい、俺は持ち物の裏にいるのさ」
イレイズの声はそうして、いなくなった。


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