名を名乗れ


ファイはいくつもの顔を持っている。
姿を変えることが容易なこの世界で、
それこそ百の顔を持っているといっても過言ではない。
ファイの名前がなければ、誰ともわからない姿もある。
ファイは姿を買い、または作る。
そうして、いくつもの姿を手に入れてもなお、
ファイはファイであると、主張している。
名前は捨てない。
いくつもに変身していっても、根本は何一つ変わらず、
ファイはファイである。

だから、と、ファイは思う。
逆に、新しい名前を名乗るということは、
新しい力を使うということのあらわれではないかと。
新しく無から始まる、新しい存在。
名前というものは、そのくらい重要だ。

ファイは少し気になることがある。
物が増えていくよりも、もっと気になること。
それは、コインの声を聞いたという、ワンレンあたりからの相談だ。
散財と唱えれば力をくれるという声が響いた気がしたという。
それは変身でもするのかなとファイは訊ねたが、
あいにくと、ワンレンはまだ試していないという。
「散財で変身するなんていったら、まるでサンザインなんてヒーローじゃない」
ファイは適当に言ったつもりであるが、
ワンレンはそのとき、神妙にうなずいたものだった。
コインで変身するとしたら、
本当にサンザインなんてものになるのだろうか。

散財で変身をするヒーローだったとして、
じゃあ敵はなんだ。
カクザがちょっと前に言っていた、
物を消して回るやつか。
たしか、イレイズと名乗っていたという、声だけの存在。
邪気の一種だろうか。
それとも、ちゃんとした悪役なのだろうか。
ファイはなんだかおかしくなった。
サンザインVSイレイズ。
わかりやすすぎる対立の構図。
この町が生み出したイベントと思えなくもない。
そう、それでもいいかもしれないけれど、
住民がそれにのっていったら面白い。

ファイがなんとなく思いついた、散財の戦士サンザイン。
金めぐりが、まだあまりないクーロンに、
彼らが飛び出していくのはもう少しあとのこと。
ファイもまだ想像つかない、
コインを手にした三人もまだ、自分達の力をわかっていない。
信頼と情熱の戦士たち。
サンザインという名前を名乗って、
彼らは人のために散財をするのだろう。

名を名乗れといわれたのなら、
心に宿る魂の名前を名乗ろう。


次へ

前へ

インデックスへ戻る