ここから旅立とう
カチはクーロンに店を持っている。
カチはセレブと呼ばれる身分といわれていて、
他に町を一つ丸ごと持っているという。
避暑地と呼ばれるそこは、
クーロンの住民もよく訪れ、
波の音に耳を傾けたり、談笑したりする。
カチは、作っているときは楽しかった。
でも、出来上がって軌道に乗ると、
手を加える余地が少なくなって、取り残された気分になる。
価値を作っているときが楽しいのだろうか。
この価値の位のものを、作る情熱。
それが楽しいのだろうか。
価値においていかれるようなことは、悲しいことだ。
でも、作り続けるしかないのだろうか。
そこにしがみついていたのでは、そこまでだ。
カチは、ふっとそう思った。
価値にしがみつくものは、そこまででしかないと。
価値を認めた上で、カチにしかできないこと。
セレブ?ちがう!
店を持つこと?ちがう!
町を持つこと?ちがう!
カチだからできることがあるはず、
価値に縛られない自由。
それは人から見れば不自由かもしれない。
でも、カチは描く。
金のやり取りなんかない世界で、
自由奔放に生きる。
価値はこの命があればいい。
旅に出よう、ここから。
誰かが追いついてきたら、遠慮なく受け入れて。
そうだな、どこか未開の地で、
鬱憤晴らすほど暴れまわりたい。
カチはそこまで思って、一人苦笑いした。
そうまで思うほど、心がこんがらがっていたんだなと。
カチには金銭のやり取りをして得た、膨大なゼニーの力が宿っている。
ゼニーの力は、ムダヅカイン・チャンが説いていた概念だ。
このゼニーの力使い果たすまで、
いや、命の炎燃え尽きるまで、
暴れて、生きて、ほえたい。
そうできたら最高だ。
ムダヅカイン・チャンは、
金を使うことがよいと説く。
もう、価値に縛られるのはごめんなの、
カチはそういって旅立とうと思っている。
カチの価値は、このだだっ広い世界が決める。
生きていていいのかどうか、それだけだ。
心は遥か未開のどこかへ。
カチはそこまで考えると、
クーロンの店を残し、避暑地の町をたたむ段取りを考え始める。
自分の価値を持っているか。
要はそういうことだろうと、カチは思う。