リミックス職人


ルホニは、身体を作って売っている。
変身できる身体を売ることが出来るのも、この世界の特徴であるが、
ルホニは少し偏執的なところがあり、
じっくりと売り物の身体をカスタマイズしている。
身体というあたりが、少しばかり妄想をかきたてられるのか、
ルホニは身体をうれしそうに作っている。
それはそれは楽しげに。

美しい体を作るルホニの耳に、
ノリのいいダンスミュージックのリミックス。
すでにある曲をルホニがリミックスしたものだ。
鼻歌でリズムを取る。
リミックスはいいものだ。
自分好みの身体のカスタマイズと感覚は似ている。
自分の好みに仕立て上げる。
この、仕立て上げる感覚がたまらない。

イメージと妄想と、腹に響く音楽の、
ぐるぐる回る感覚。
ルホニの作り出す身体が、
イメージの中でぐるぐる回る。
美しい身体が、ハイスピードの音楽に合わせて、
大きくなったり小さくなったり。
脳内麻薬が分泌されているような、
ジャンルのわからない、妄想リミックス。

ルホニは美しくなろうとしているのとは、また違う。
美しい身体を作りたいのだろうと思う。
触れて、愛でて、自分の目で見たい。
脳内、または脳の外で閉じ込めたい感じ。
ルホニが作り出す身体というものは、
きっと多少エロティックなおもちゃなのかもしれない。

リミックスされたナンバーがかかる。
店の外で誰かが行く気配がする。
ルホニは視線だけをちらりと上げたけれど、
ごく普通の町に、ごく普通のヒーローっぽい人物が走っていくだけで、
ルホニの興味にとどまることはなかった。
ルホニは視線を作りかけの身体に戻し、
誰がいるかなんて考えることはなかった。

ヒーローは多分ルホニの管轄外。
どうせならもっと崩れたものか美しすぎるもの。
そのくらいなってないと面白くない。
リミックスを重ねすぎてどろどろになったものも面白い。
正統派ヒーローは、いるとしたら面白くないものだ。
何かどこかがいびつなほうが美しい。
ルホニはそう考えているけれど、
いびつなヒーローなんてなかなかないものである。
いても美しいいびつさとは程遠い。
ならばルホニはいつものように、
店で身体を作り続けていて、それに集中していたほうがいい。
さっきのヒーローなんて知ったことじゃない。

まっすぐすぎて面白くなさそうなヒーロー。
ただ、ちょっとだけ感じた情熱は、
何かルホニに通じるところがあったような気がしたけれど、
それすらもルホニの妄想のノイズかもしれない。

回るリミックスナンバーが、耳で鳴りつづけている。


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