湯煙と人情
マタンゴはクーロンにたどり着いた旅人の一人だ。
義理堅く、まっすぐで、人情を重んじる。
クーロン住民というより、
いわゆる江戸っ子的なところがある。
クーロンの町は江戸だろうが大阪だろうが、
あまり関係なく飲み込むらしく、
マタンゴもまた、クーロンの住民に溶け込む。
溶け込むけれど、マタンゴの根本がとけて消えたわけでなく、
ここもいいけれど、何か足りないかなぁと思う。
クーロンは確かに魅力的な町だ。
住人はちょっとおせっかい焼きで、
町の雰囲気は十分出ているし、
怪しげで懐の広い町だ。
マタンゴはそれを否定する気はさらさらない。
じゃあ何が足りないのだろう。
足りなければ作ればいいだろうと思うのだが、
作ればいいってのともちょっと違うのだよと、マタンゴは思う。
最近はヒーローが町を走っていくのを見かける。
イレイズを探して倒していると、
シャノことシャノ吉と呼んでいる少女から聞いた。
「あたしも変身したいなぁ」
などとシャノ吉は言っていたが、
着替えと変身の区別が曖昧なこの世界で、
さて、何が変身になるのやらとマタンゴは言った。
「乙女心がわかってなーい!」
こりゃ、乙女心を理解するのには相当かかりそうだと、
そのときマタンゴは思ったものだった。
シャノ吉いわく。
ヒーローらしい彼らはサンザインプロトといい、
物を消して回るイレイズをやっつけて回っているという。
サンザインプロトは三人いて、
ケー、ティー、ダブル。というらしい。
ティー、ケー、ジーなら卵かけご飯だなと、マタンゴが言うと、
また、シャノ吉からぽこんと叩かれる。
いわく、
「ヒーローにそんなこといわないの!」
らしい。
いいじゃないか、卵かけご飯。
とにかくそのサンザインプロトというのが、
この町でみんなを困らすやつと、戦っているらしい。
なんというか、世界の救世主となる!というようなのじゃないなぁ。
本当に、この町のちっさなヒーローだ。
いいじゃないか、勧善懲悪だよ。
プロトプロトとマタンゴはつぶやき、
ふろ、と。風呂、と。
ああ、風呂入りたいなぁと思う。
銭湯なんかいいなぁと思うけれど、
あいにくとクーロンにはそういう施設はない。
熱い湯につかりたいというと、鍋で煮込まれそうなクーロン。
風呂が足りないんだろうなぁと、マタンゴはなんとなく理解した。
マタンゴが湯煙の町に行くのは、
もう少しあとのことである。