おしゃれ猫
ラサルはクーロンの住民。
人の姿、猫耳と猫尻尾を持っている。
気ままに着替えては、猫のパーツとあっているかを確かめる。
男とも女とも、それすら着替えられるこの世界。
それならば、服飾はいいものがいいね。
それで、ポリシーがある程度あったほうがかっこいいね。
ラサルなりに感じることがあり、
猫パーツは外すことはない。
おしゃれをするには服を買う。
当たり前ではあるけれど、
いいものを買いたいし、おしゃれで似合うものを買いたい。
とても単純なことなのに、
それを満たすものが、なんと少ないことか。
嘆くことはない。
いつかは出会える、探していればきっと素敵な服に出会えるはず。
おしゃれの道はいつだって途中。
極めるってことがないから楽しい。
ラサルは、あたたかい服を好む。
見た目が寒げに見えても、
なぜかあたたかい服。
値段が高い服があたたかいと限らない。
何着も何着も服を渡り歩いたラサルは気がつく。
これは、作り手の情熱だ。
心の熱が、こうしてまだ残っているんだと。
すばらしいね。
ラサルは思う。
声高に叫ぶわけでない職人の情熱が、
本当にいいものに宿っている。
それはあたたかさという形を取って、
ラサルを包んでくれる。
それを手に入れるためならば、多少の手間隙はついて回るものだ。
だってなかなか、情熱のあたたかさがわかる人なんていないもの。
あたたかくて、おしゃれで、ラサルに似合って、
すべての条件をクリアした、最高の服。
値段以上に、情熱が届く感覚が素敵だ。
ある日。クーロンの町を歩いていたラサルは、
どこかの路地でなんとなくヒーローっぽい人物達を見かけた。
はてなんだろう。
気配を消す猫さながらに、ラサルは気配を消して路地を覗き込む。
「物に宿った情熱を否定するのか!」
ヒーローっぽいひとりが叫ぶ。
『情熱を感じられるものなどいないよ。物は増えると重いじゃないか』
「情熱は、伝わる!」
『さぁ、どうだろうな』
「このっ!」
ヒーローが何かに殴りかかる。
気配だけのものだろうか。
空振りして転倒する。
見えないけれど、声は聞こえた。
物の情熱を感じる人はいないと、声は言っていた。
(何もわかっちゃいない)
ラサルは服を握る。
(こんなにもあたたかいじゃないか、情熱は)
情熱は伝わるんだ。
ラサルは、そう感じる。